第24話 バトロワ予選

「それでは魔水晶ますいしょうバトルロワイヤル第一試合、スタート〜!!」


実況の合図と共に、森でサイレンがなる。それを聞いた選手達はすぐに行動を開始した。


「どこか注目のチームなんてないんですか?」


ヴィジはミルとダクラにそう尋ねる。


「うーん、そうだなぁ...お前達以外ほとんどがアークの隊士だから全員強くはあるんだけどぉ...」


「今出ている中だと、地界ヘル第五階層の隊士達はどうだ。今回のパーティは全員魔法使いみたいだし...ほら、もう魔物を倒してるぞ。」


中継画面の横には現在の順位とポイントが書かれた表が映し出されている。


「地界第五...あの右斜め前に見えるのがそうですかね?」


見ると右斜め前には、VIP席より高く掲げられた『レヴィアタン』のシンボルが描かれた旗が見える。


「え〜と〜...あっ、中に可愛らしい女の子が座ってる!それ以外誰もいないみたいだけど...」


「あの子も選手なのかな...バトロワに出てないってことは一騎討ち?」


みんなは双眼鏡を覗きながら観察している。


「お前ら、なんでみんな双眼鏡持ってきてんだ?目が悪いのか?」


ダクラが疑問を投げかける。


「観光用ですよ。」


と、ヴィジは答える。自然を観察するため常に持ち歩いている様だ。


そして、


「はぁ〜、お前らなぁ。あれは大君主オーバーロードだぞ。」


と、ミルが一言。その言葉にみんなは驚愕した。


「えぇ!?あれ...いや、あの方が大君主なんですか!?」


「だ、第五階層といえば確か...大君主八仙はっせんの一人だったはず...」


「そうだな。『全知』を冠する大君主『ラプラス』。ちなみにお前らが見てるの、向こうは気づいてるからな。」


「いっ!?」


みんなはとっさに見るのをやめた。


「お、俺達、殺されるのか?」


「いや、そんな野蛮なやつじゃないよ。大君主を理性のない化け物か何かだと思ってんのか?


まぁ、そうだとしてもアイツは俺の親友の1人だから大丈夫。」


それを聞いて5人はホッとする。


そんなやり取りをしていると、突然ワーッと会場が盛り上がり始めた。


「おっと〜、早くも選手同士が鉢合わせたー!!


対戦カードは、憤怒の階層『ミスパール軍代表』vs慈愛の階層『ルナ軍代表』です!!」


と、実況が入る。


見ると、血紅色けっこうしょくの隊服と翠緑色すいりょくしょくの隊服を着た隊士達が対峙している。


「まだ5分も経ってないのに、早いなぁ。」


「そうだね。転移ポイントは決まってるし、1番近いところでも5kmは離れてるのに...索敵系の能力者でもいるのかな?」


「慈愛...天界第五階層ですね!!」


「八仙...『破壊』の大君主、ルナ様の...」


今大会初の戦闘に、みんなは息を飲んだ。


「おぉーっと!!ルナ軍のミスト選手の幻影で、相手は敵を見失ってしまったーー!!そして、その隙にパクト選手の攻撃ーー!!なんと、魔水晶が割れてしまったーー!ミスパール軍代表、ここで敗北です!!」


選手達の活躍に盛り上がる会場。


「うぉーー!!なんつー綺麗な連携なんだ!!」


「すごいわぁ!!」


5人もすごく興奮している様だ。




「しゅーりょー!!勝者が決まりました!!


第一試合、決勝に駒を進めたのは――ラプラス軍代表だぁーー!!ルナ軍は惜しくも2位という結果に終わりました!」


第一試合目が終わり、次は5人の出場する第二試合に移った。


5人は緊張しながら扉の前に向かう。


「はぁ〜、緊張するなぁ〜。」


「大丈夫、合宿を思い出して。」


そんな話をしていると、


「いや〜、まさか予選で当たるとはね。」


と、アストラ達が声をかけて来た。


「そういえば、みんなも第二試合だったね。」


「ザイオン軍、もし接敵したら容赦はしないからな。」


「ふん、望むところなんだよ。」


「さぁ、始まるよ。」


魔水晶が配られ、現在地、安全地帯の範囲がわかるマップ機能と、警告や報告が流れる機能のついた端末も一緒に配られた。


魔水晶を入れる用の腰バックも渡される。カモフラージュのため人数分あるみたいだ。カモフラージュ用の腰バックには『魔石ませき』という魔力のこもった石が入っている。


そして、準備が整うと扉が開く。


「ふぅ〜...よしっ、行こう!」


一息つくと、みんなは一斉に中へ入っていった。




「すげぇリアルな森だな。」


「現在地は安地の端ね...」


「開けた場所もあるのかな...?あ、ネリン。能力効きそう?」


「うーん...この魔水晶、やっぱり対策されてるからアタシの

ハンドパワーで遠隔破壊できないわね。


この安地も上空30mと地中には結界が張ってあるみたいだし、小細工はできないわ。」


中に入ってしばらくすると、試合開始のサイレンがフィールド内に響き渡った。


「よし、まずはポイント稼ぎだな。作戦通り後衛のフラクタが魔水晶をもって、ネリンと俺がサポート、ヴィジとウェントが前衛だ!」


「「了解!」」


森の中を進んでいると、横の茂みからデカイ狼のような魔物が現れた。


「フラクタ!」


「任せて。」〈雑音除去ノイズキャンセル


戦闘の前に、音で位置を特定されないよう音波操作をして魔物と戦う。作戦の1つだ。


「ナイス、フラクタさん!あとは...」〈火球〉


そしてボンッと、ウェントの技で魔物を倒した。


「よしっ、まずは1ポイント。この調子でどんどん行こう!!」


5人は勢いのままに魔物を倒していく。


それぞれの役割をこなしながら、順調にポイントを稼いでいき、5分が経過した。


すると、


〔ピピピッ!!警告。第一回、ゾーン収縮開始。〕


と、ここで最初の警告が入る。フラクタはすぐに端末を確認した。


最初から半分の広さになるようだ。


「ここは安地から外れてるわね。」


「それじゃぁ、ここからは外回りでいく。今から出てくる魔物は2ポイントだ。最低でも魔水晶2つ分の20ポイントは稼ぐぞ!!」


警告を聞いて、5人は作戦通りに動いていく。


魔物を倒しながら移動をしてるとすぐに、


〔ピピピッ!!報告。クオン軍代表、敗北。〕


と、報告が入る。


「もう一組退場かぁ。早いね。」


「そうだな。ここからは慎重に行くか。」




「なかなか接敵しないね。」


第二収縮が始まり、未だ選手と出会っていない5人は足音も消して安地内を進んでいく。


すると、割と近くでドドォォンと爆発音がして、それと同時に、


〔ピピピッ!!報告。オール軍代表、敗北。〕


と、報告が入った。


「今の音、近いわ。奇襲を...」


「まって、ネリンさん。」


報告を聞いて漁夫の利を狙おうとしたネリンを、ヴィジが急いで止める。


「今の退場したチームは2チーム。残りは僕達を含めて3チーム。もう1チームの居場所が分からない以上、ここで手を出したらそれこそ狙われるよ。」


「そうだよな。だがこのまま三つ巴が続けば、いずれ混戦になって勝利の運要素が強くなってしまうな。」


「よりによって三つ巴なんて...」


三つ巴になった場合の対応は場合と運によるため、いい作戦が立てられずにいた。


「第二収縮が終わったら魔物が消える。戦闘音がしない分、他のチームも収縮が終わるまで隠れてるな。」


「どうするか...」


――そして、3チームが膠着状態のまま第二収縮が終わった。5人の背後には青紫色の空間が広がっている。


マップを見ると、開けた場所はなく、森の中だ。


「最終安地の広さはだいたい0.25π㎢。このままだと混戦のゴリ押し勝負になる。


魔水晶が割れなくても戦闘不能になったら敗北だからな。」


「そうなったら、僕達に勝ち目はほぼないね。」


「いっそのこと+1枠を狙うのは?アストラちゃん達なら能力もだいたい知っているし、勝てるかも。」


「いや、俺達のポイントは22ポイントだ。ここで勝てたとしても、32ポイントで1試合目の2位の35ポイントに届かない。結局1位をとるしかないんだよ。」


5人が考えていると、ヴィジがある提案をした。


「最終収縮が始まって、お互いの位置が確認できるようになったら、僕が1人でゼノシュ達じゃない方のチームを壊滅させる。」


「はぁ!?なに言って...」


「まぁまぁ、つまり――」


「!?...試す価値はあるか...」


「よしっ、一か八かだね。」


5人はヴィジの提案を受け入れ、賭けに出ることにした――。




運命の最終収縮が始まり、選手達の距離が縮まっていく。


「ヴィジ、いけるか?」


「うん、もうだいぶ溜まったよ。」


ヴィジは胸の前でオーラを溜め続けている。


「気づかれないかしら?」


「大丈夫だ。普通は攻撃しようとしたら溢れる天賦力てんぷりょくですぐ分かるが、ヴィジの場合、その天賦力自体を操作できるからな。」


そして、ゾーンと共に前へ進んでいると、横の方に人影が見えた。


よく見るとゼノシュ達ではない。


「よしっ、行くぞ!!」


「おっけー! 」


「うぉりゃー!!」〈風撃砲ストームブラスター


5人は作戦を決行する。ヴィジはレイ攻撃に乗って素早く敵チームの元へ飛んでいく。


「な、なんだ!?」


敵も突然の奇襲に反応が遅れた。


「いけー!ヴィジ爆弾!!」


「うわぁ、防御ォ!!」


「無駄だー!!」〈天使の梯子はしご


ヴィジが力を解き放つと、ズドォォン!!っと、合宿の時の数倍規模の光の柱が現れた。


「「ぐわぁーー!!」」


敵は光に飲み込まれ、魔水晶もそのまま破壊されてしまった。


自身のありったけをぶつけたヴィジはその場に倒れ込む。


〔ピピピッ!!報告。ソル軍代表、敗北。〕


「よくやったヴィジ!よしっ、ここからが本番だ!!」


その報告を聞いて、レイ達は喜んだ。


そして、作戦通りゼノシュ達が飛び出してきた。


「...ヴィジくん?」


「なんで1人だけ...あ!?あぶない!!」


雷撃砲ライトニングブラスター


レイは音につられてヴィジのところに行ったゼノシュ達の背後から奇襲をかける。


「ふぅ、あぶないあぶない。」


「さぁ、行くぞ!!」


「望むところだ!!」


遂に最後に残った2チームが対峙し、決勝進出を賭けた戦いが始まる――。

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