第8話 覚醒
昼休憩が終わり、嫌々訓練の準備をする隊士達。
「先に言っておくが、俺との訓練の目標は"覚醒"すること、ただそれだけだ。方法などは自分で導き出せ。人に植え付けられたイメージと、自分で確立させたイメージとでは成長に雲泥の差があるからな。」
ミルはそう言うと持ち場に着いた。
「さぁ、順番はさっきので。」
「また俺たち見せしめにされるのかぁ。」
最初のチームは『
「俺もその場から動かないが、能力は最初から使うからな。」
そう言って午後の訓練が始まった――。いや、訓練と呼べるものではなかった。
「俺の言動にはヒントが隠れてると思え。そして死ぬまでかかってくるんだ。」
隊士達の攻撃は全てバリアのようなもので防がれ、能力もグリッチのようなノイズと共に全て掻き消されている。
そして、隊士達を念力のようなもので吹き飛ばしたり、地面に叩きつけたりしている。まるで一方的な蹂躙だ。
「さぁさぁ、そろそろ何か掴めそうか?」
〈
高台で観戦中の隊士達も死にそうな勢いだ。
「あわわわわ、やばいよこれ...ねぇレイ...」
隣を見るとレイは立ったまま気絶していた。
「おぉぉぉぉ!?レイーーー!?」
「レイは最期まで立派だったぞ。」
「か、勝手に殺すんじゃないよ!それにウェントくんも死にそうだよ。」
「あぁ。でもこれから本当に死ぬかもね。フッ。」
「情けないと言いたいところだけど、アタシも正直死を悟ってるわ。」
「わ、私お腹痛くなって来たかも〜。」
ザイオンの訓練が優しく見えるくらい厳しい。
5人は自分の寿命を数えながら、順番が来るまで地獄の時間を過ごした。
――時間はすぐに経ち、とうとうミル軍チームの順番になってしまった。
一応戦い終わった隊士達はミルに回復させてもらってるが、ぐったりしている。
「やっと来たか。今んとこ"覚醒"に重要な要素が何なのか理解できたやつは2、3人といったところか。お前達はどうだろうな。」
ミルはそう言うと、かかってこいと言わんばかりに戦闘態勢をとった。
「まずは畳み掛けるぞ!」〈
レイの風で砂埃が舞う。
「へぇ、目眩しか。」
「ミル様は動けない分こちらにアドバンテージがある。炎魔法。」〈
球状の炎がミルを襲う。
「そうだね、まずは遠距離攻撃で...」
「甘いな。」
攻撃を畳み掛けようとした瞬間、砂埃が一気に晴れてしまった。
「ちなみに俺に小細工は効かないが、戦闘スタイルとしてはいい判断だな。だが...」
〈完璧なる法典:解析→ダウンロード→編集→アウトプット〉
「まさか...それは僕の...」
「こうなる事も想定しないとな。」〈神魂炎・
ミルはウェントの魔法攻撃を模倣し、威力を跳ね上げて打ち返した。
地面が削れる程の威力だ。
「まずい...」
「私に任せて!」〈
しかし、フラクタの攻撃でかろうじて相殺する事が出来た。
「本番では予想外のことも起こりうる。俺が最初のチームに言ったことを思い出せよ。」
――その後も激しい戦闘が繰り広げられた。
〈
石に神力を込めて飛ばすネリン。
「うーん、威力も精度もいいね。」
〈完璧なる法典:
ミルはいとも簡単に石を目の前で止め、それを鋭利な形に引き伸ばし、複製、強化して跳ね返してきた。
まるでプログラミングを現実世界でやっている様だ。
「命の危機に晒されると、人は一時的にリミッターを外し、覚醒する――。」
レイがボソッと話し出した。
「今ミル様の攻撃で何回か力が増しているのを感じた。つまり、この状態を維持するイメージを掴む。そのためにはこの覚醒とやらの正体を探らないと。」
「なるほど、それならこの厳しすぎる訓練にも納得できる。」
「と、とりあえず僕たちは死にかけなければ行けないとかぁ。」
ウェントは少し嫌そうな顔をしている。
「そうとわかれば、とことんやるのみね。」
5人はより一層攻撃を強めた。限界を超えるために。
「そろそろ掴めてきそうかな...ならもっと核心をつかないとな。」
ミルもなんだか楽しそうだ。そして、地面の砂粒を5人めがけてヒョイっと飛ばした。
(砂粒を飛ばしてきた?)
5人の頭にはハテナが浮かんでいる。
「いいか、質量はエネルギーだ。」
と、ミルが一言。
「は?えっ!?」
「どうしたのレイ?」
「え?今なんて...えっ?嘘でしょ!?」
「まさか...」
ミルの言葉にネリン以外は顔面蒼白になった。
「ちょっ、まっt」
「待たん。」〈完璧なる法典:
ミルが能力を発動した次の瞬間、辺りが青白い閃光に包まれた。そして物凄い爆音と衝撃波が高台で観戦中の隊士達まで飲み込んでいった。
「あの人マジでぶっ飛んでるな。」
ザイオンは瞬間移動して、観戦中の隊士達を守るためバリアを張って爆発を防いでいた。
訓練中の5人はとっさに防御したものの、後方へ吹き飛ばされてしまった。
「ハァハァ、死んだかと思った。核心ってなんだよ。」
「いたたた~、自分を守るのに精一杯すぎて、覚醒の感覚とか考える暇なかったよぉ〜。」
5人はヨロヨロと立ち上がった。ボロボロだが深い傷などは負っていない。
(核心...)
ヴィジは何かを思い出そうとした。
(言動、意味...最大値、覚醒、プログラミング、質量、エネルギー...質量をエネルギーに?そうか、あれか...重要なのは――。)
◇◇◇◇◇◇
~十余年前~
住処で本を読んでいたヴィジは仲間に話しかけられた。
「ナ、ナ二゛ョンデルノ?」
「あぁ、神力発電ってものについて書いてある本だよ。聞かせてあげようか?」
「ンン゛。」
「神力発電では、大気中に分散してる魔力や念を吸収してエネルギーに変換してるらしいんだけど、効率面で問題があるみたい。」
ヴィジは本の内容を頑張って説明し始めた。
「君もよくパソコンいじってるけど、インプットした情報を編集してアウトプットするプログラムで遊んでるでしょ。あれ、たまにちゃんと表示されなかったりするじゃん?
説明下手くそかもしれないけどそれに似ていて、入力したエネルギーを正しく"表示"出来てないんだよね。だから効率が落ちるの。入力したもの正しく変換する。その上で重要なのは――。」
◇◇◇◇◇◇
「出力だ。」
ヴィジが何か気づいたように呟いた。
「出力?あー、そういう事ね。」
その言葉にみんなハッと気がついた。ネリン以外。
「そう、たとえどれだけ神力があっても出力が弱ければ意味が無い。体力に置き換えて見てもパンチ一発でバテることは無いだろ。それはあらかじめ出力が決まっているからだ。もし体力の全てをパンチに乗せることができたら、通常の数十から数百倍の威力が出るはずだ。」
「なるほど〜。『今ある力で出来る最大値を引き上げる』ってそういう事ね。そうとわかれば格段にイメージしやすいわ!!」
ネリンもちゃんと理解出来たようだ。みんなが立ち上がると、身体から溢れるオーラの量が多くなった。
「フッ、どうやら理解したようだな。」
ミルは誇らしげな顔をすると、
〈完璧なる法典:シャットダウン〉
と、能力を使い、5人は糸が切れたように倒れ込んだ。
ミルは素晴らしいと拍手をしている。みんなはそれを見て少し嬉しく思った。
午後の部も終わり、長かった訓練1日目がようやく幕を閉じた。
「みんなお疲れさん!」
「よく頑張ったね!」
みんなはやり切ったことにうぉーーっと歓喜の声をあげた。中には泣いている隊士もいる。
「今日の疲れもあるだろうし、明日は訓練というより見学に行こうと思う。」
「見学?」
「それは明日のお楽しみさ!よし、本部の宿に戻るぞ〜。」
話も終わり、ワイワイ歩きながら帰路についた。みんなの顔には安堵の顔が戻ってきていた。
本部に戻るとみんなは疲れたのか騒ぐことなく眠りについた。
「みんなもう寝たのか。」
「そうみたいだね。」
「親善大会...秋の風物詩だねぇ〜。」
ミルとザイオンは、ザイオンの部屋でお喋りをしていた。
「そういえばミル。2日後に大君主会議の徴集があったと思うんだけど...」
「そうだったな。楽しい会議になりそうだ。」
「じゃあやっぱりミルも...」
「あぁ、因縁を晴らすためにもな。」
「かえって酷くなりそうだけど、その時はその時か。」
「だな。俺にはお前や他の仲間もいる。信頼しているよ。」
2人は温かい空気が流れるのを感じた。
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