第7話 恐怖への克服

「おいおいどうしたーー!そんなんじゃ何も守れねぇぞ!」


ザイオンとの訓練が始まり、ミルがヤジを飛ばしている。


ザイオンはハンデとして、その場から動かず、最初は能力の使用も禁止だ。


「僕あまりこういうの得意じゃないから、加減を間違えないようにしないと。」


「大丈夫だ。死んでも蘇生する。」


「全然大丈夫じゃないですよーー!!」


みんな全力でザイオンに挑むがまるで歯が立たない。


「その場に立ってるだけなのに攻撃が当たらない。なんで!?」


「全部手刀で捌いてる。見えない速度で。」


「手刀で!?」


「そう。だけどまだ僕は防御しかしていない...そろそろ攻撃をするぞ。」〈神ノ武器ウェポン:レジェンドシステム〉


ザイオンがそう言うと、ズズズッと紫の稲妻をまとった如意棒のような武器が現れた。


「ま、まさかあれは、神ノ武器!?」


「おおお、俺チビりそうだだだだ...」


その武器は明らかにヤバい雰囲気を放っている。ザイオンの雰囲気も変わった。それを目の当たりにした隊士達は恐怖で震え上がった。


遠くの高台から観戦している隊士たちも次は我が身だと気が気じゃない。


「レイ、神ノ武器って?」


ヴィジが何事もないように尋ねる。


「神ノ武器っていうのは、選ばれた者だけが手に出来る神ノ加護フォースに由来する武器。要するに神ノ加護の一部ってことだ。


まぁ、現状ほぼ大君主オーバーロードしか持ってないらしいから、扱うには相当な神力しんりょくと能力が必要って事だろう。詳しいことは未知だけど。」


「へぇ〜。ザイオン様の武器、明らかに強そうだね。


能力で生成するのとは別なの?」


「そうだ。神ノ武器は神ノ加護に組み込まれたプログラムの一つだからな。見た目や付与された能力などは最初から決まっている。


神話の時代に生み出された伝説ノ武器レジェンドウェポンって言うのもあるぞ。これは特別な力を持ったただの武器だね。」


そんな立ち話をしていると、ズドーンとものすごい衝撃波に体が持っていかれそうになった。


「ぐわあああ!!」


「どうしたーー!ザイオンはただ棒を飛ばしてるだけだぜ。付与された能力は使ってない。」


見るとザイオンがものすごい速度で武器を飛ばし、操り、その衝撃で隊士たちを蹴散らしている。おまけに電撃つきだ。


訓練中の隊士達は恐怖で足がすくんでいる。


「もう挑んで来ないのかー?」


ザイオンがそう言うと、ザイオンの頭上に神ノ武器がたくさん出現した。


「はいっ!?」


隊士達は思わずすっとんきょうな声を出す。


「通常、神ノ武器は1人ひとつまでしか持てない。だけど僕はそれを無限に生成することができるし、形も能力も自由自在。これがレジェンドシステムに付与された能力だ。」


頭上の神ノ武器はパラボラアンテナのような形に変化していく。


そして、キュイインという音と共に中心が青白く光り始めた。エネルギーを溜めているようだ。


「いくよ。」〈Xエックスブラスター〉


神ノ武器から稲妻を纏ったレーザーが、ドォォンと発射された。


衝撃で相対する隊士たちは全員気絶してしまった。


「はぁ、情けないなぁ。」


ミルがため息混じりに呟いた。


「いいか、君たち達が今すべきことは恐怖心を無くすことだ。戦場で恐怖心はかせとなる。祓魔師エクソシストになった以上覚悟を決めるんだ。」


「臆病な君が恐怖心を語るのか〜。」


ザイオンの言葉にすかさず煽りを入れるミル。


ザイオンはコホンと一つ咳をして、


「要するに僕との戦いの目標は"恐怖への克服"。実際僕は攻撃を直接当てていない。大胆な攻撃は全て恐怖心を煽るためだ。」


言われてみると、確かに倒れている隊士達はほぼ無傷だ。


「さぁ、内容もわかったことだろうし、さっそく次のチーム行きますか。」


見せしめになったチーム可哀想...と、順番待ちの隊士達は心の中で哀れんでいた。




――その後も隊士達は果敢に挑むも、尽く恐怖に負けてしまっていた。


「い、い、い、いよいよ次は我が身かぁ...」


「あぁ、我が創造主ペアレントよ、命だけは助かりますように。」


レイとウェントは戦う前から心が折れかかっている。


「情けないわねあんた達。」


ネリンは少し呆れた声でそう言った。


「こういう所はお前やヴィジを見習わないと行けないな。」


「当然でしょ。」


「それじゃあ、行きましょうか。」


5人はザイオンの元へ向かった。


「やっと来たか、ミル軍の期待の星達。さ、まずはかかっておいで。」


ザイオンは少し嬉しそうな表情を浮かべ、かかって来いと手招きした。


「最初に攻撃してこないのは慣らしだ。ザイオン様に攻撃するイメージを植え付けるための。」〈水撃すいげき


レイが超高水圧のビームを放つも、弾かれてしまった。ザイオンの横に二又に分かれた水の跡が残っている。


「今度は私も――。」〈死ノ波デスウェーブ


「僕だって。」〈猛火もうか


「へぇ~、フラクタの攻撃に炎を乗せる連携...面白いね。」


ザイオンがふぅっと息をすると、物凄い爆風で連携攻撃がかき消されてしまった。


ネリンとヴィジもそれぞれ岩を飛ばしたり、剣で攻撃したりするが、案の定全て捌かれてしまった。


「何ていうか、わかってはいたけどデタラメね。」


5人は既に少し疲れている。


「さて、そろそろかな。」〈レジェンドシステム〉


ザイオンが武器を出した瞬間、5人は今まで感じたことがない程の恐怖に押し潰されそうになった。


身体からだの周りに強烈なオーラを纏っている。


「どう?驚いた?観てるのと対面するのじゃ訳が違うでしょう。」


ザイオンはニコッと笑った。


「や、やばい...息が...出来ない...」


「こ、こ、これは、よ、予想以上ね...」


訓練前まで余裕そうだったネリンも恐怖で震えている。


「君たちは強いよ。自分が思ってる以上に。」


ザイオンは威圧をやめて話し始めた。


「さっきの黒いダミーバグ、あれ本当は2体に合わせても『プリンス』級より弱いくらいなんだ。」


みんなはハッとした顔をする。


「みんなの本当の実力なら余裕で勝てたはず。でも何故か勝てなかった。それは恐怖に気圧けおされて、『こんなのに勝てるわけない。』と、半ば諦めていたからだ。


能力を使いこなすにはイメージが重要。それは戦いに置いても同じ。勝てないと思う相手に勝てるわけが無い。僕が言いたいことはわかるかな?」


「ザイオン様に勝つイメージ。勝つとまでは行かなくても攻撃するイメージ、攻撃を通すイメージ...」


レイは戦いが始まる前の自分の言葉を思い出した。


「イメージはさっきの戦いで出来る。あとは実行するまでね。みんないくよ!」


「おう!」


ネリンの合図と共に一斉に攻撃を仕掛けた。


「飛んでくる武器はアタシが止める!」〈神ノ力ゴッドパワー


おりゃーーっと武器を跳ね返す。


「よし、今だ!」〈天ノ光てんのひかり


波滅はめつ


霊力破壊オーラクラッシュ


不動超滅炎ふどうちょうめつえん


その隙にみんなは全力で技をぶつけていく。激しい攻防が繰り広げられた。すると、


「なんだ、やれば出来るじゃないか。でも...」〈Xブラスター〉


と、ザイオンの攻撃がより激しくなった。


「うぁぁぁぁーー!」


「きゃぁぁぁーー!」


我武者羅がむしゃらに突っ込んでくるだけじゃあ、あまり意味ないぞ。」


そう言うと、放たれるオーラが更に強くなった。


「まだだー!」〈雷撃砲ライトニングブラスター


レイは立ち上がりXブラスターを相殺した。白い稲妻がバチバチと音を立てている。



「個人でじゃなくて、僕たち全員で勝つイメージだね。」


ウェントも立ち上がり、攻撃の相殺を始めた。


「アタシのハンドパワーで動きを止める。その隙に攻撃よ。」


ネリンが動きを止め、レイとウェントが攻撃を相殺。ヴィジとフラクタがアタッカーとして攻撃をぶつけた。


「より高い連携をするか。」


ミルも感心しながら見ている。


「もっとだーー!恐れるなー!」


みんなは一丸となって攻撃を続ける。しかし、ザイオンの攻撃に徐々に押され、最終的には全員ぶっ飛ばされてしまった。


みんなは急に疲労が襲って来たのか、かなり息切れしている様子。ヨロヨロと今にも倒れてしまいそうだ。


「少しは楽しめたぞ。なんちゃって、よく頑張ったね。」


ザイオンがおつかれ!っと、みんなに近づこうとすると、


「油断大敵...」


と、ネリンが呟いた。その瞬間、後ろからザイオンのレジェンドシステムが物凄い速さで向かってきた。


ザイオンがヒョイっと避けるとそのまま地面に突き刺さり、衝撃波と地響きが広がっていった。ネリン以外のみんな間抜けな表情を浮かべている。


ネリンは少し悔しそうにしていた。


「最初僕に向かって武器を跳ね返したとき、一つ外したのはわざと...やっぱり僕が隙を見せるまで待機させてたのか...」


ザイオンはハハッと笑う。


「ミルが気に入ってる理由、何となくわかったよ。」


ボソッとそう呟くと、次のチームを呼んだ。




――最後のチームも終わり、午前の部が終了した。


みんな安堵の顔を浮かべている。


「やっと昼休憩だぁ。」


「命があって良かったーー!」


みんなシートを敷いてワイワイと昼食を食べている。今だけピクニック気分だ。


みんなが楽しんでいると、ミルが話し出した。


「次の午後の部は自分が相手だが、俺はザイオンの様に甘くないから、死人が出る覚悟で挑むように。」


急にぶっ込んでくる。


「ミル、一人称は統一しろよ。」


「仕方ないだろう。そこは理解してくれよ。アハハ!」


そんな会話を聞いて、みんなの安堵の顔は絶望の顔に変わっていった。

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