銀河騎士隆盛期 壱 神の章 シーカゲとガーゴイルの賭け
銀河騎士隆盛期 壱 神の章(バサラバート編)
17
今回の事件に、カイゼル老師が関わっているのではないかと、懸念を示したドレフィスに、対して、まだそう決めつけるのは、早急だと、たしなめたカンデンだったが、命がけで、カイゼル老師に示した公題「光線剣なき光線剣は成立するか?」の問いが空しく感じられた。
カンデンは居間の煙草入れから、パイプを取り出し、刻みタバコを詰めて、細長いパイプ用のオイルライターで火を付けて、煙をくゆらせ、久しぶりにアルカロイドが身体に広がってゆく感覚に身を任せて、長椅子に深く身を沈めた。
光線剣で切断した左腕と右手首の再生治療をカイゼル老師が拒否したと聞いた時、カンデンはカイゼル老師が抱える闇と、虚無の深さを感じて、真理の光が射して、その虚無が浄化される瞬間を疑ってしまったことを後悔していた。
その頃、ズーカイル老師を含めたジンウ長老会の10長老の面々は、非公式の会合で、ブラック・ウイドウ号の強奪事件に、カイゼル老師が関わっているとすれば、10長老会としても座して、それを静観するだけ、という訳にも往かないとの結論に達していた。
失踪した船の捜索は軍の銀河中央方面艦隊と、銀河辺境方面艦隊に任せるとしても、もと銀河騎士の老師が、ジンウの暗黒面に堕ちて、凶悪な空中放電の力を得たとしたら、その事態の収束の為には、ジンウ長老会として、然るべき銀河騎士を差し向ける必要があると考える者が、大勢を占めていた。
騎士団長を退いたドレフィスを推す声が、多かった。過去に華々しい戦役を経た彼の、実績を評価してのことだった。
もう一度、彼に指揮権を与えて、銀河騎士団が彼の見事な指揮の元、一致団結して活躍する姿を望む者が多かった。
18
その頃、暗黒騎士シーカゲと、海賊ガーゴイルは、占拠したブラック・ウイドウ号を駆って、シリウス星系の第9番無人惑星への進路を執り、北極圏へと急いでいた。
ガーゴイルは銀河連邦の元技術士官から、秘密裏に、高密度透過コロイドの展開装置と、小型のイオン連続発射砲の設計データーを、高額のクレジットで買い取り、それを装備する為に、第9番惑星の北極圏の地下に存在する、かつて存在した大規模な銀河辺境反乱組織が計画して設計され、放棄された無人自動化工場へと向かっていた。
その後、反乱組織は、銀河辺境方面艦隊の攻勢を受け、瓦解した。かつての反乱軍の残党から買った、嘘のような情報だった。
ブラック・ウイドウ号の陣容では海賊稼業をするのは無理がある。バサラバートの衛星軌道上にあるジャンクヤードで船の外販に取り付けた誘導ミサイル類だけでは、心もとなかった。二人にしてみれば、一刻も早く、それなりの火器類を船に装備する必要があった。
この作戦は悪の華をさかせるという二人の矜持を未確認の情報に賭けた、銀河連邦軍の虚を突いた大胆な作戦だった。見つからないで地下の無人自動工場までたどり着ければ、二人の勝ちで。もし銀河連邦軍に見つかったら、覚悟を決めるしかない。
反乱組織組織の残党の情報は正しかった。無人工場の動力工場も問題なく稼働したし、無人工場の自動ラインも届懲りなく稼働した。製造工程のトロイド類も完全に船の改修のために完全に起動していた。自動工場中央の量子人工頭脳に、反乱組織から買った、暗号コードを入力すると、自動工場の中規模量子人工頭脳は小型速射イオン砲の基本設計データーと、高密度透過コロイドの展開装置の基本設計データーを、取り込んで、その装備の制御系の基本設計まで自動で構築して、完全にブラック・ウイドウ号の改修作業を完遂した。
無人工場が稼働して船の改修をしている二か月あまりの期間、暗黒騎士シーカゲと宇宙海賊ガーゴイルの二人は、ブラック・ウイドウ号の船内格納庫から、強襲型装甲イオノクラフトを引き出し、空いている資材倉庫の一角に、乗り入れ、そこに組み立て式の簡易トイレを設置して、イオノクラフトの後部格納庫から、火器類と船舶食料と飲料水を運び出し、その格納庫の中で、寝袋にくるまって寝泊りするという、侘しいキャンプ生活を送っていたのである。
反乱組織が計画し、設計した自動工場は、工場としては完璧だったが、工事に携わる人間への配慮などまったくない設計だった。それだけが、二人のならず者にとっての災難だった。
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