第7話 赤ちゃん竜

 森を進む先、アデルが何か気配を感じとって歩を止めた。



「どうしたの?」


「しっ」



 そっと天狗てんぐの手みたいな大きな葉をかき分けると、そこには拓けた場所。


 そして一緒に見てみると、植物でできたベッドみたいなものに卵がある。


 すでに孵化がはじまっているけど、親が見当たらない。


 なんの子供なんだろう、とささやきあう。



 見守るとそれは『石青頭竜:せきせいとうりゅう』。



 その名の通り、青い皮膚が頭にある竜。


 石と呼ばれる部分は六角形で後ろ頭まで複数で構成されていて、身体は白で毛はない。



 たまごの殻を頭から振り落としたその赤ん坊は、不思議そうにしていた。


 

 竜の孵化なんて初めて見る。


 正直感動した。


 それに石青頭竜は、自分的に可愛い。



 その油断が気配になったのか、赤ん坊がこちらに気づき、目を合わせた。



「どうしよう?」


「ん~・・・うしろの気配もどうしよ~・・・?」



 石青頭竜は孵化したあと『最初に見た者』を親だと判断しかねない。


 そして僕の肩をつんつんと叩いたのは、どうやらアデルじゃない。


 そっとアデルと一緒にうしろを振り向くと、そこには成人した石青頭竜。


 彼らは草食だが、子煩悩でも知れている。


 子供をさらいに来たのだと判断したら、攻撃に出てくるだろう。



「はぁい」


 片手を少し上げて挨拶してみる。


 石青頭竜は人語が少し分かる竜だ。


「こちらに敵意はないよ」



 小さく何度もうなずく、おそらく孵化した赤ん坊の親の竜。


 アデルと一緒にそろりそろりと間合いから抜け出すと、赤ん坊が鳴いた。


 親竜の感動かなんかの鳴き声に驚いて、我先にとその場を離れるため叫びながら走る。


 アデルと途中はぐれそうになったけど、大きな木をはさんで回り込んだだけで合流。


 

 息が上がった僕たちは少し休憩をとろうよ、ってことになった。


 そして自然にはえたリンゴの木から実をもいで食べて、甘いなぁと思う。


 そう言えばちらほら、リンゴの木に実が成っていた場所を走ってきた。



「このリンゴ、もしかしたら石青頭竜の主食かもしれないな」



 アデルの言葉の次に、なんだか視線がして背筋がのびる。


 コーヒーカップを持つ手が小刻みに震えている。



「ま、まさか・・・」



 つんつん、とまた肩を叩かれる。


 向かいにいたアデルの顔の方を先に見ると、彼はかぶりを振った。



 そっと振り向いてみる。


 するとそこには、さらに大きな首長の石青頭竜の群れがいた。



 圧巻して、声とかをもらしそうになる。



 なんて大きな存在なんだ、


 領域を侵したと思われたなら、


 コーヒー一杯おごった所で許してもらえるわけがない。


 今、悟った。


 ここらは、石青頭竜の住処の領域だ。



 アデルが震える声で声を透した。


「どうかここを無事に通してくれ~っ。我々は旅の者だっ」



 首長石青頭竜がその長く白い首をこちらに下げて、青い瞳で見た。



「《よかろう》」



 意外なのか分からないが大きくなるにつれ人語が喋れるらしい。


 赤ん坊の孵化を親切に見守ったことが知れて、複数から感動された。



 子供ができる確率が少ない彼らにとって、新入りは可愛いものでしかないらしい。



 孵化を見守っていてくれた礼に、と、とあることを教えてもらった。


 それから、見聞の旅に出るのだったら、帰ってきた折話を聞きたい、と。



 なんかもうその荘厳に涙が出そうにになってきて、畏れを抱いていますとぼやく。


 首長石青頭竜の複数から笑いが起る。


 小さめの方たちが、小首をかしげて顔を見合わせていた。




 ・・・―――  ・―― ・・―――・ ・・



 今ではちょくちょく森に入って、彼らと話をしながら夜を明かす日もある。


 彼らの主食はやはりリンゴであって、赤ん坊には親が与える。


 口の中でリンゴをくだいて唾液に混ぜて、口移しをするらしい。


 

 巨木に勝りかねない身長の、首長。


 その後ろ頭に乗せてもらって、界隈を見渡した。



 高くて怖い。


 絶景だったと言いたいが、正直「早く降ろしてくれ」と叫んだのは体勢を崩したから。


 横にいる首長に鼻で笑われたりした。


 なんなんだよ、と声を張ってみるが、周りの首長から少し笑いをとってしまう。



 書き記してもいいかと訪ねると、さすがに文字は読めないから知らないと言われた。


 お前なら悪いことをするはずもないし、よかろう、と許可を得た。


 僕は彼らの領域を、勝手ながら守ってあげたいと思った。

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