魔導術式アドバン

椋鳥

第一話 魔術とパッパラパー

位置・時間・環境・触媒・法陣・詠唱。

”魔術”という浪漫ロマンがもつ力。

それは、とある者達を深淵へと駆り立てる。

人々は、彼らを”ウィザード”と呼んだ。


アヴメフ期1000年。

世界は、悠久の平和を謳歌していた。

世界には2つの国しかなく、その間に争いは無い。

人の魔術を得意とするアヴァケロン王国。

機械の魔術を得意とするメフィスト王国。

違いはあれど、互いに歩み寄りながら進んできた。

しかし、そんな平和は長く続く筈がなく……


【アヴメフ期1015年・クーフリン島】


ここの触媒は動物の骨。

あとは、物語スクロール・ロロの心臓。

ちょっと高かったんだ、この物語スクロール

羊皮紙だからかな?そう思いながら、物語を破く。

上手くいくはず、そう思いたいけど。

暗く小さな部屋の真ん中、僕は陣を書き足す。

ロロはアヴメフ期初期に活躍した詩人。

本来なら関係のない物語スクロール

それでも、この物語を選んだのは……

「好きだから」

それだけで、十分だろう。

ニヤっと笑う、無駄に整った顔。

白髪で背はそこそこ、線の細い体。

恐らく、15歳くらいだろうか?

格好は、中世の魔術師風っぽいローブ。

全体的には、変な格好と言える。

後は説明がめんどいので省く。

「天に属す、我らの使い。」

お楽しみの、詠唱の時間だ。

この世界の魔術は本当にまどろっこしくていい。

いちいち詠唱しなくてはいけない。

今回僕が使用する魔術に使用する詠唱は、擬似的な神の力の降臨。

まあ、普通の魔術。

擬似的な神の降臨というと凄いもののような気がするが、そうではない。

0.000000000000001%引き出すことが出来ればいいかなって感じだ。

神という抽象的なもの(僕は宗教に詳しくなく、それでも魔術が使いたいため、概念的な神として)の力を引き出すことは非常に難しい。

なので今回は神側に魔術を寄せるのではなく、触媒に魔術を寄せた。

1対9位の割合だ。

それは事前に、魔術陣に組み込んでいる。

「変動する力。」

魔術とは触媒に含まれる魔術力を使って発動させる。

重要なのはその魔術力の量もそうだが、その触媒の素材、来歴、思念、積年が重要となる。

何でできているか、どういう歴史を辿ってきたのか、どんな思いがどれくらい込められているのか。

そして、それをもってどれだけ長く存在したか。

この4つが重要になる。

まあ、最後が重要過ぎる気がしないでもないが。

どんなに程度の低い触媒でも、1000年も経てば凄いことになる。

「地を穿つ雷鳴。」

触媒には等級ランクがある。

下からI《アイ》級、H級、G級、F級、E級、D級、C級、B級、A級、S級。

今回使う動物の骨はもちろんI級だ。


動物の骨

素材……魔獣?の死骸から取れた骨。

来歴……猟師ヴァイケンによって狩られた魔獣?は肉と骨とに加工され、肉の部分は食用に、骨の部分は廃棄された。骨は山に廃棄され、4年程、山に住む鮮血の狼ブラッドハウンドに大切に扱われた。

思念……うまいうまいうまい。これはとてもうまいいぞ。なんていうかとてもうまい。もう、手放すことなどはできない気がする。

積年……肉と骨とに分解されたのは1011年。


適当に拾っただけの骨にも、こういった来歴がある。

なんの意味もないように見えて、ちゃんと意味があるのだ。


「異なる輝き。」

簡素だが、詠唱が終わった。

足元の陣が赤色に、輝き出す。

石の床に木炭で書いてあった魔術陣は、ありえないくらいの光量を持つ。

来る……来るぞ!

「――って、何やってんのよファム!」

バンッと扉が開かれたと思えば、見慣れた幼馴染が、ただならぬ様子で僕を射抜いていた。

「魔術の勉強だよ、ハイリー。」

言い訳がましく、僕はハイリーに言う。

別にやましいことなんて一つもないし、むしろ感心するべきじゃないかな。

そう思いながら、改めてハイリーを見る。

金髪で青い瞳、幻想的な見た目とは裏腹に元気な少女。

それがハイリー。

ハイリー・ヒーリング。

魔術は中断、そして失敗。

触媒は灰になり、結果はなし。

僕は歯ぎしりするように、ハイリーの方を見る。

しかし、なぜか文句を言うことができない。

「大変なのファム、戦争が起きたのよ」

そんな訳は無い。

想像したくないし、頭の片隅にも置きたくない。

それを信じられるのはよほどの馬鹿か、パッパラパーだけだ。

けれど仕方ない……信じてやろう。

「分かった」

簡単に返事をして、考える。

なぜ、そうなったのかを。

戦争。

身近なものでありながら、やけに遠い存在。

国が2つしか無いのだから、相手は決まっている。

アヴァケロン王国と、メフィスト王国。

それは元からあった一つの線引が、炎を伴うものに変化したことを表す。

それは本来ありえないことで、1000年平定期と呼ばれたアヴメフ期では考えられないことだ。

想像してみてほしい、昨日までそれなりに仲の良かった友達が、いきなり自分の首を狙ってくる暗殺者になるなんて、誰が想像できるだろうか。

ましてや、それなりに仲が良かった期間というのは、1000年もあるのだ。

今更ぶち壊すことに、一体何の意味があるというのか。

「警報、聞こえなかったの?」

幼児に諭すように言うハイリー。

そりゃあ聞こえるわけがないだろう、この部屋は半分防音室みたいなものだし、むしろ部屋に警報が聞こえるくらいの壁の厚さなら、魔術には適さない。

「……」

しかしそれが言い訳でしか無いことを、僕はよく知っている。

ハイリーが言いたいことはそういうことではない。

それぐらい常に把握できるようにしておかないと、すぐ死ぬわよ。

とでも言いたいのだろう。

余計なお世話だっと跳ね返すのは簡単なのだが、そうするともうあとが怖いので、ここは僕が悪うございましたという感じで行く。

「そんなことだろうと思った、早く行くわよっ」

ハイリーが動く前に僕は、手早く描かれた魔術陣を消し、道具をまとめる。

低級の触媒、布、木炭、鉛。

どれも無くてはならない、大切な道具アイテムだ。

ハイリーが先に外に行っているといって、駆け出していく。

「分かった、すぐ行く。」

僕も、急がなければならないだろう。

この小部屋は元々物置で、今はさっきみたいな魔術の研究に使用している。

さっきの魔術が失敗したのには、理由がある。

魔術がとても繊細だからだ。

なので、1つの要素でも欠けたなら、そこでお終い。

明るさ、場所、触媒。

その他にも様々な要素が噛み合って初めて、魔術は成る。

小部屋を出て、玄関に向かう。

「ファム、早く行くわよ。」

外からハイリーの声がする、僕は急かされるままに靴を履き、扉を開ける。

見慣れた景色だ。

煉瓦や木材で作られた家々が立ち並び、綺麗に道が整備されている。

空は薄く濁っていて、機嫌が悪そう。

ぱっと見ただけでそう思うから、間違いない。

「ごめんハイリー、遅れた。」

僕はハイリーの手を引いて走りだす。

周りはあり得ない位静かで、とても戦争をしているようには見えない。

それもそのはず、こんな辺境の島、真っ先に狙われるわけもないのだ。

仮に狙われていたとしても、対物魔術障壁がある。

そう、アヴァケロン王国は各島に、対物魔術障壁を貼っている。

対物魔術障壁とは、アヴァケロン王国首都の近衛魔導騎士インペリアルが10のS級触媒を元にして行った魔術の、いわば副産物だ。

その効果は破格で、A級以下の魔術、同等の物理攻撃を無効化する。

というもの。

S級の触媒を用いて発動させた魔術は最低でもS級魔術に匹敵する。

そこら辺はもう神話の話になるが、S級触媒をウィザードが用いれば、それ以上の魔術を成すことも出来るらしい。


【次回予告☆】


ハイリーを連れ、外に出た僕。

そこで待っていたのは、恐怖であった。

背中は焼け、ハイリーとも離れ離れに。

一体、どうなっちゃうの!?

頑張れファム、頑張れハイリー。

君たちなら、超えられるはずさ。


【次回も見てね☆】





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る