月森景都③

ぼくは自分の気持ちを伝えるのが得意じゃない。


それは誰に対しても。



大学で初めて葉山くんに出会って男の子を知った。


男の子と話すのは同性と話すよりも緊張するし、難しいというのを初めて知った。






だけど、男の子と喋れるような機会がこれから存在するか分からない。


もしかしたら、葉山くん以外の男の子と会うことなく、ぼくの人生は終わるかもしれない。そう思ったら、少しでも積極的にならないといけないという気持ちが強くなった。





そんな時にボディガードの増員が理事長から告げられ、募集するという話が出た。






ぼくの友人も応募していたし、ほとんどの女性が応募していたと思う。


だって、葉山くんの近くにいる双葉先輩のことを見ていると、羨ましいと思わない人はいない。少しでも近くに居られる可能性があるのであれば、そのチャンスに手を伸ばさないわけにはいかない。



ぼくもそれに感化される形で応募した。








でも正直、受かるとは思っていなかった。ぼくが得意なものはテニスぐらいで人を護れるような才能はない。例えば、柔道とか合気道のように人と対峙して戦える術を持っていない。






だから、ぼくが受かったと聞いた時は何かの間違いなんじゃないかと思った。


だけど、それと同じ位、素直に嬉しかった。これから葉山くんの側に居られるというだけで。







それから少しして顔合わせがあった。新しいボディガードとして選ばれたのは僕と小夜さんだけだった。ぼくとしてはもっとたくさん選ばれると思っていたので、この人数だったのはちょっと予想外。



葉山くんの近くにはいつも通り、双葉先輩がいた。双葉先輩は大学内でも有名な人で学力優秀で身体能力も高いと有名だ。


部活やサークルなどに参加していないものの、講義内でスポーツをやることがあったらしく、その動き方が完璧だったらしい。ぼくは自分の目で見たわけではないけど、大学内で双葉先輩の噂を知らない人はいないはず。ぼくでも噂を聞いたことがあるぐらいだし。



双葉先輩と話す機会は今までそんなになかった。ずっと噂の人であり、葉山くんの近くにいる人という認識。

隣の小夜さんの運動神経は分からないけど、選ばれたってことは得意な方なのかな。




――――――――


そして講義を受ける時もぼくと小夜さん、双葉先輩、葉山くんが一緒にいることが多くなった。いつどんな時でも葉山くんを護れるように。



だけど、葉山くんの隣はいつも双葉先輩だ。


そのことについて不満を持っていたのはぼくだけじゃなかったみたいで、隣の小夜さんが後ろの二人に聞こえないぐらいの声で語り掛けてきた。



「月森先輩も葉山くんと話したくありません?」



「ぼくも話したい」



「そうですよね。ずっと双葉先輩ばっかりでずるいです!あたしたちだって葉山くんの隣で色んなお話をしたい!」



「う、うん」


小夜さんの勢いに押される形で頷いてしまった。でも、双葉先輩だけが隣で葉山くんと話せるような状況に何も思わないのかと言われたら、そんなわけがない。喋りかけられるぐらいの距離に葉山くんがいるのに、話せない。







それからぼくと花里さんは振り向いて双葉先輩に少し意見をした。それでも双葉先輩は動揺した様子を見せることなく、受け答えをしている。



さすが最初にボディガードとして選ばれただけあって、なんかすごい。どんな時の受け答えも上手すぎて、ぼくたちが勝てる感じがしない。


というか、絶対に葉山くんと隣を譲る気がないというのをオーラだけで感じるのはすごい。





最終的に講義が始まることもあって、ぼくと花里さんは振り向くことを止めて、前を向くことにした。


後ろから葉山くんと双葉先輩の会話が聞こえて来るので羨ましいものの、さすがにもう振り向くわけにはいかない。




「ぼく、これからもっと葉山くんと話せるようになりたい」



「そうそう、月森先輩もそう思いますよね!」



「うん。話したい」



「あたしも話したいです!」




小夜さんは本当に真っすぐで思ったことをすぐ口にすることができる。今の自分に小夜さんみたいにすごく素直になれるわけじゃないけど、少しずつ葉山くんに気持ちを伝えて行けるようになりたい。





でも、まずはボディガードの募集に勇気を出して応募したぼく自身を褒めてあげたい。

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