朝の出来事

朝。すでに開けることもままならなくなった窓から光が差し込む。瞼の裏に暴力的な光の白が雪崩こむ。くすぐったさを感じて、目を開ける。


まだ目は慣れていない。強い光を感じると共に目がくすぐったくなる。


冬は夏と比べては快適だが、冷えて仕方ない、と男は思う。それと同時に唇と喉が渇いているのに気づく。


水をとりに行きに起き上がろうとする。男の一世一代の大勝負が始まる。下半身が布団に浸かったままなので、まだ布団の中にいたいという気持ちと水を飲みたいという気持ちが拮抗する。まだ、温さを感じていたい。まだ、動きたくない。


そういった布団への執念きを男は理性で振り払う。


この勝負には勝ったが。男は考える。


次の勝負には勝てるのかどうか。



男は、水だけが入っている冷蔵庫を開ける。中には、水が三分の一程度しか入っていない、2Lのペットボトル一本。取り出して、水をコップに注ぐ。

そして、唇とコップの隙間から少し水をこぼして一気に飲み干す。飲み終えて、少しした後、頭の中心を冷やしたような鋭い痛みが走る。


男は、歯磨きをしていなくてよかった、と思った。


口にミント味が広がっていたら、もっと痛かっただろう。



今から外に出ようと男は考えた。唐突だった。彼は休日に外に行くような人間ではなかった。日頃のほんの少しの罪悪感が動力源なのかはわからないが、唐突に彼は外で遊びたくなったのである。


人類を支配する道具に、彼はこう尋ねた。


「外出先 おすすめ」


そうやって彼は外出先を選ぶ作業を始めた。

彼にとって、外出先を調べるということ自体が新鮮なことだったが、彼が思っていた以上に、スムーズに予定は組み上がった。


そうして、彼は、手つき鮮やかに外出の準備をして、いざゆかんという気持ちで玄関に向かう。廊下の途中で彼はガックリと肩をおとす。


五時を告げるチャイムがなっている。男は、外をちらりと見る。


もう、外が暗くなってしまっていた。


そう呟いた男の寝室の窓は、西向きだった。

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