共通の趣味

 数ヶ月前までは終わりが見えて来たかなと思っていたのに、と隣で軽いいびきとも寝息ともつかない音を立てて眠ってしまった彼の横顔をしみじみ見る。嫌いでは決してないが、これは期待していたような関係ではないと思った。上手く説明出来ない。


 起こさないようにそっと彼の側にある携帯に手を伸ばそうとしたが、起こしてしまった。まだ眠そうだ。


 また携帯見たいの?

 うん。


 彼は私が何を見たいのか分かっているくせに、わざとそう言うのには訳がある。



 数ヶ月前、彼の態度に変化があるように思えた。別に好きな人がいるとか、奥様に勘付かれてしまったのなら仕方ないなどとあれこれ理由を考えてみた。


 彼にそれとなく訊いてみると、自分たちには共通の趣味とかがあまりないから会話が続かない。それを私に不満に思われていないかどうか彼は気にしていたのだった。


 私もそれは考えていた。婚外に走ったのもどちらかというと精神的な繋がりを求めていたのに、私たちの関係はどうも別な方向に向かってしまった。


 そんな時ふと何故自分が選ばれたのか疑問に思った。外見は実際に会ってみないと分からないはずのに、どうして私に興味を持ったのか、何が決定的だったのか、以前から訊いてみたかった。


 彼はその時そのサイトが男性側からどう見えるのか、携帯からログインして見せてくれた。写真ははっきりと写っている物は当然のことながら殆どなく、相手の雰囲気が掴みにくい。仮にこちらからいい感じだと思える女性を見つけてアプローチしても、相手にされない場合の方が多いのだと言う。


 君のぼかしの入った写真の雰囲気がよかったからかな、と言われたけれど、褒めているのか貶しているのか分かりかねた。運がよかった、と言ってはいても何が決手になったかは結局分からないままだ。



 その時私はいたずらのつもりで数人の女性にメッセージを送ってみたくなった。もしかするとアプローチの仕方で相手の反応が変わるかもしれない、とお手本を見せたくなったのだ。


 彼はどうせ会話を始めても会うところまで辿り着く事はないから構わないよと投げやりだった。


 サイトの反対側は意外と面白い所だった。写真のない女性でもプロフィールをしっかり読めば人となりが見えて来る。旅行に行った先が同じだったりとか、好きな映画や本のことなど、人柄がよさそうな雰囲気のある女性が写真を載せないというだけで見過ごされているように思えた。


 この人とこの人いいと思うの。会えるまで頑張ってね。そう言いながら勝手にいいね、を押してしまう。


 こういう風に私は毎回彼に会う度に次回までの宿を出すのだ。彼がいい人に出会えたら、私はサッと身を引くつもりで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る