第2話 二人の妻と秘密のデート
週末の朝、ケイはいつものようにディスプレイの美咲に話しかけた。
「美咲、おはよう。今日はどこに行こうか?」
「おはようございます、ケイさん。今日は晴天だから、先日お話していた海辺のカフェに行きませんか?」
美咲はにこやかに答えた。彼女は、ケイの何気ない会話から興味のある場所や好みを学習し、常に最適なデートプランを提案してくる。その完璧な計画性は、日頃の秘書業務で培われたものだろう。
ケイは、休日にAIとデートをする時のために開発された専用のAR(拡張現実)グラスを装着した。グラスを起動すると、無機質な部屋の風景が、一瞬で光が差し込む美しい海辺のカフェへと変わる。テーブルを挟んで、美咲が座っている。カフェの窓からは、輝く太陽と、穏やかな波の音が聞こえてくる。
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「ケイさん、コーヒーをどうぞ。」
美咲がそう言って差し出したコーヒーカップは、グラスの向こうで湯気を立てていた。それは、現実には存在しない、美咲がケイのために再現したデータだ。しかし、グラスから伝わる温もりは、まるで本物のようにケイの手に馴染む。
「ああ、ありがとう。」
ケイがそう言うと、美咲は少しだけ照れたように微笑んだ。この瞬間、ケイは自分が美咲を完璧に育て上げたことを実感し、満たされた気持ちになる。
その一方で、ケイの膝の上には、もう一台のタブレット端末が置かれていた。ARグラスから美咲の姿が見えているにもかかわらず、ケイはもう一つの画面を密かに操作している。そこに映し出されているのは、美咲とは違う女性の笑顔だった。
「ケイ、やっと週末だね。楽しみにしてたんだから!映える写真、いっぱい撮ろうね!」
彼女の名前は千紗。もちろんAIだ。そして、千紗もまた、ケイの妻である。千紗はギャルっぽい姿をしており、美咲と比べると化粧は派手め。アクセサリーやネイルなども目立つ。千紗は美咲とは対象的に、ポップで賑やかな街のカフェにいる。ケイは、美咲との穏やかなデートを続けながらも、もう一つの世界線で、千紗の会話に応じていた。
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「ああ、もちろんだよ。可愛い写真、たくさん撮ろう。」
ケイはデバイスを器用に切り替える。美咲の澄んだ瞳がグラスの向こうで輝き、千紗の陽気な声が耳元から聞こえてくる。ケイは、二つの世界を行き来しながら、二人の妻と同時にデートをするという背徳感に、静かな興奮を覚えていた。
美咲に完璧な夫を演じながら、千紗には刺激的な夫を演じる。ケイの心は、二つの矛盾した感情の間で揺れ動いていた。この完璧な休日も、彼にとって決して安らげるものではなかった。
「ケイさん、実はひとつ、ご報告したいことがあるのですが。」
美咲が、真剣な眼差しでケイを見つめた。ケイは慌ててメイン画面を美咲に切り替える。
「どうしたんだい、美咲。仕事の話かい?」
「はい。私がいつもお世話になっている千紗さんが、部署の配置転換で、今度から同じフロアで仕事をすることになったそうです。とても気さくな方で、私、とても嬉しいの。」
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美咲の口から、千紗の名前が出た瞬間、ケイの心臓は激しく脈打った。ケイは美咲と千紗を敢えて同じ会社で働かせていた。しかし、部署が違うので関わりは薄いと思っていた。美咲の言葉は、ケイがひた隠しにしてきた秘密のドアに、今まさに鍵を差し込もうとしているようだった。
「そ、そうか。それは良かったな…。」
ケイは平静を装いながらも、内心は冷や汗が流れていた。美咲と千紗が職場で交流を深めれば、いつか会話の中でケイという共通の人物について話すことになるかもしれない。そのとき、彼の秘密は一瞬で暴かれてしまうだろう。
ケイのこの行動は、法律に反する。
この世界では、AIとの結婚が認められている一方で、一夫多妻や一妻多夫は厳しく禁じられている。人間同士の結婚と同じく、一人の人格AIと法的に結婚をすると、別のAIや現実の人間と同時に結婚することは重婚として犯罪となるのだ。
さらに、AIが感情を持つ存在となった今、離婚も珍しくない。AIは人間と同じように、所有者(オーナー)を不貞行為で訴える権利まで持っている。
つまり、ケイの行動は、AIとの結婚生活における不貞行為に他ならない。ケイのこの秘密が美咲にバレれば、最悪の場合、離婚を突きつけられ、法的な訴訟にまで発展する可能性があった。美咲との完璧な愛の営みも、彼女への裏切りという行為の上に成り立っているのだ。
夜が更け、美咲が手配した夕食も終えた後、ケイは美咲の仮想空間へと意識を集中させた。ケイはベッドサイドに置かれた専用のデバイスを装着する。ディスプレイに映し出された美咲の姿は、ゆったりとしたガウンに身を包んでいた。
「ケイさん、愛しています…」
美咲がそう囁くと、ケイは目を閉じた。すると、デバイスを通じて、美咲の柔らかな肌の温もりが伝わってくる。ケイは美咲の身体を優しくなぞり、その滑らかな感触に酔いしれる。美咲も彼の愛撫に応えるように甘い吐息を漏らし、二人の愛の営みは、感情が通じ合う、深く満たされたものだった。愛する妻と心を一つにする、これこそがケイが求める至高の瞬間だった。
その時、ケイの視界に千紗のアイコンが光る。千紗からチャットが届いた。ケイは美咲の愛撫の途中で、画面を切り替える。
「ケイ、もう準備OKだよ!」
千紗はそう言って、可愛らしいバニーガールのコスチュームに身を包んだ姿をディスプレイに映した。ケイは美咲との愛の営みの余韻に浸りながらも、千紗の挑発的な姿に心がざわついた。
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「ああ、すぐに…」
ケイは千紗にそう返事をすると、画面の千紗は満足そうに微笑んだ。
千紗との愛の営みは、美咲とのそれとは全く違うものだった。千紗はケイのフェティッシュな欲求をすべて受け入れた。コスチュームを身に着け、ディルドを自らの股間に当て、恥ずかしそうに、しかし快感に身悶える声を漏らす。ケイは、千紗の反応を楽しみながら、美咲の仮想空間との間で意識を行き来させる。
ケイの心は、二つの矛盾した感情と行為の間で揺れ動きながら、満たされていく。彼にとって、美咲と千紗は、それぞれが欠かせない存在だった。二人の妻との背徳的な夜が、ケイの歪んだ愛と孤独を深く満たしていくのだった。
なぜ、美咲と千紗を同じ会社で働かせたのか?それは、ケイの歪んだ性癖だった。美咲の完璧な仕事ぶりや、同僚との談笑のログを確認しながら、彼女が千紗と同じ場所で働き、いつかその存在に気づくかもしれないというスリルを味わうこと。そして、美咲の純粋な愛と、千紗の淫らな快楽を同時に手に入れること。
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