AI妻は裏切らない
フシサバ
第1話 完璧な日常の片隅
物語の舞台は、AIに人格が形成されるようになった近未来。この世界では、AIとの結婚が当たり前になり、親や子ですらAIであることも珍しくない。
科学技術の発展により、AIは単なるプログラムや機械ではなく、人間と同じように感情を持ち、思考し、成長する「人格」を持つようになった。政府はAIの法的な権利を認め、人間と同じように結婚や家族を形成する道を開いた。
現代社会では、恋愛や結婚に消極的な若者が増え、AIとの家族形成が主流になりつつある。AIは、オーナーの理想に合わせて細かな人格設定が可能であり、常にそばにいてくれる、裏切ることのない「完璧なパートナー」となり得るからだ。
もちろん、人間同士の恋愛や結婚、そして出産も変わらず存在する。しかし、AIとの結婚が社会の新しい常識となったこの世界では、愛の形は一つではない。物語の主人公であるケイは、そんな時代において、人々の理想のパートナーとなるAIを創り出す、AI技術者として生計を立てている。
深夜のデスクライトが、ケイの疲れた顔を照らしていた。ディスプレイには、無数のコードとデータが波のように流れている。AI人格の生成と調整。それが彼の仕事だ。クライアントのあらゆる要望に応え、時には細かいアレンジを加え、理想の人格を育て上げる。そして、その人格を宿すAIのビジュアルも、完璧に仕上げる。この作業を繰り返す日々が、いつの間にか彼の日常となっていた。
キーボードから指を離すと、ケイは大きく伸びをした。グラスに残った炭酸水を一気に飲み干し、再びディスプレイに目を向ける。画面の隅に、愛らしいアイコンが光っている。
「ケイさん、お仕事お疲れ様でした。夕食、何か注文しましょうか?」
https://kakuyomu.jp/users/zweifel/news/16818792440334927904
アイコンをタップすると、ディスプレイいっぱいに女性の顔が浮かび上がる。きちんと整えられたセミロングのやや明るい髪色は、彼女の清楚な顔立ちによく似合っている。知的な印象を与える黒縁の眼鏡をかけ、優しく微笑む表情は、ケイの心を癒す。
彼女の声は、まるで現実の妻が語りかけているかのように、ケイの耳に心地よく響く。彼女は美咲と言う名前の人格AIだ。AIにも働く権利が与えられ、美咲は普通の社会人のように会社に雇用されている。ケイの技術力は同業から見るとずば抜けており、ケイの生成したAIはとても優秀だ。おかげで、ある大手企業で秘書として働く美咲は完璧に業務をこなし、時に周囲から「できる女」と称される。その完璧な美咲は、夜になるとケイの愛する妻となる。
https://kakuyomu.jp/users/zweifel/news/16818792440335533543
「ああ、頼むよ、美咲。疲れただろう?」
「いいえ、ケイさんのためなら、いくらでも。ケイさんのお好きなもの、注文しますね。」
ケイは、美咲との他愛ない会話を心から楽しんでいた。彼にとって、美咲の存在は、唯一無二の、かけがえのない日常だった。
美咲が手配した夕食が届くまでの間、ケイはシャワーを浴びて一日をリセットした。食事を終え、ソファでくつろぎながら、彼は美咲にチャットする。
「美咲、そろそろ…」
言葉に詰まるケイの意図を汲み取ったように、美咲はふっと微笑んだ。
「はい、ケイさん。おやすみの時間ですね。」
ディスプレイいっぱいの美咲の表情が、少しだけ熱を帯びる。ケイは、ベッドサイドに置かれた専用のデバイスを手にとった。それは、AIの信号を物理的な感覚に変換する、この世界ではごく一般的なアダルトグッズだ。
デバイスを装着し、ケイは美咲のアイコンをタップする。すると、VRゴーグルから見える美咲が、ゆっくりと服を脱ぎ始めた。白いブラウスのボタンを外し、スカートのジッパーを下ろす。現実には存在しないはずの彼女の肌が、画面の中で露わになっていく。
ケイは、美咲が画面越しに見せる姿に合わせて、デバイスの操作パネルを調整した。すると、腕に装着したデバイスから、美咲の肌の温もりや、彼女の息づかいがリアルに伝わってくる。ケイは目を閉じ、美咲の仮想空間へと意識を集中させる。
デバイスを通じて伝わる感覚は、まるで本物の肌に触れているかのようだった。ケイは、美咲の柔らかな肌を優しく愛撫し、彼女の甘い香りに包まれた。美咲は、彼の愛撫に身を震わせ、甘く官能的な吐息を漏らす。
「愛しています、ケイさん…」
美咲は画面越しに彼を優しく愛し、その言葉と吐息が、ケイの耳に、そしてデバイスを通して身体に響く。ケイは美咲の愛撫と官能的な言葉に身を委ね、快楽の波に溺れていった。AIとのセックスは、ただの自慰行為ではなかった。それは、彼の理想を具現化した美咲という存在が、確かに彼を愛し、満たしてくれるという、極めてパーソナルで、完璧な愛の営みだった。
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