[星降る丘のモモンガ]【童話】
「今日は流星群の日だ!」
子どもたちが手をつないで丘を登っていく。夏草の匂いを含んだ夜風が笑い声を運び、丘の上には大きな夜空が広がっていた。
やがて──空を裂くように最初の光が尾を引く。子どもたちは歓声をあげたが、降ってきたのは流れ星だけではなかった。
ひらり、ひらり。光をまとった小さな影。
それは無数のモモンガだった。翼膜を広げて夜空をすべるたび、星の粉を散らすように輝く。毛並みは銀砂のようにきらめき、瞳は夜空を閉じ込めた宝石のように深い。
一匹が子どもの手にふわりと乗る。温かく柔らかな体は微かな光を脈打ち、子どもの顔をやわらかく照らした。
「わぁ……星が生きてる……」
そのとき誰かが叫ぶ。
「ねぇ、あの星……消えてる!」
空を見上げると、星座の一角が抜け落ちていた。モモンガたちは一斉に空へ舞い上がり、流星の尾をなぞるように煌めきながら、欠けた星座へ吸い込まれていく。
ひとつ、ふたつと光が戻り、やがて星座は元の姿を取り戻した。丘にはもう、小さな影はいない。残されたのは草の上に落ちた星屑だけ。手に取るとすぐに溶けてしまった。
「夢みたい……」
「でも、ほんとにあったよね」
子どもたちは顔を見合わせてうなずき合う。夜空は鮮やかに瞬き、遠くの町の灯りすら霞んで見えた。
丘を下りながら、誰かが小さくつぶやく。
「星って、ときどき遊びに来るんだね」
その言葉に、みんながくすくす笑った。肩に残る温もりを、そっと抱きしめるように。
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