[床を這う怪獣]【ホラー?】

 ……ゴゴゴゴ……。


 巣箱の底が震えた。

 木くずがざわめき、頬袋に隠したヒマワリの種がカタカタと鳴る。

 胸の奥まで響くような低い唸り。まるで地面そのものが怒っているみたいだった。


 恐る恐る顔を出したぼくの目に、そいつは映った。

 黒い円盤の怪獣。

 つるりとした甲羅、前面には赤い二つの光。

 床を舐めるように這いながら、じりじりと迫ってくる。


 「ひっ……!」


 回し車の陰に飛び込んでも、怪獣は止まらない。

 低い咆哮を轟かせながら、鉄の牙のような縁で床を削り、砂粒や抜け毛を吸い込んでいく。

 それがもしもぼくの尻尾を掠めたなら、一瞬で飲み込まれてしまうだろう。


 ――ズズ……ガガガ……。


 怪獣が柵にぶつかった。鉄が悲鳴をあげ、ぼくは巣箱の奥へ逃げ込む。

 心臓は太鼓のように暴れ、ひげの先が震え止まらない。

 赤い目はぼくを探すように、左右へと揺れた。


 ガリッ。

 鉄の爪でかきむしられたみたいに、柵が震えた。

 ああ、もう終わりだ――。


 だが怪獣は突然動きを緩め、重い音を残して部屋の奥へ退いていった。

 赤い目はなお光り、何かを飲み込み続けている。

 獲物を逃しただけ。次は必ず喰われる。


 ぼくは震える体を小さく丸め、祈るように目を閉じた。


 その時、ワンルームの隅でコーヒー片手に眺めていた颯太が、にやりと笑ってつぶやいた。


 まーたうちのハムがルンバとじゃれてるよ

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