#18 夜の蝶

広場の中心にそびえたつ巨木。その木の洞の中から光に包まれながら、ゆっくりと人影が出てくる。




その人物は……どう見ても女王ではなかった。


その妖精は、たぬまりたちの背丈に近く、女の子のように見えた。


しかしその姿は、ワイシャツに黒いベスト、黒いスラックスに革靴という、どこか現代的な装い。


妖精の羽根は背中に折りたたまれていて、男装の麗人のような雰囲気だった。


「こちらの洞にお入りください」




たぬまりは首を傾げる。


「洞に……入る?」




案内の妖精は微笑んだ。


「女王様は巨木の上部におられます。この洞に入ると、魔法で上昇できます」


「……エレベーターじゃん」


「洞ベーターと呼ばれています」


「ギャグかな」




そういうことなら、と全員で乗り込む。


洞の内側は滑らかな木の壁に囲まれていて、ほんのり甘い香りが漂っていた。




「なんか、乗り心地はそのままエレベーターだね」


「魔法って言ってたけど、これ完全に物理的な上下移動だよね」


「木の中を移動してるって思うと不思議だけど……」




チーン。


軽やかな音が響いて、洞ベーターが開いた。




そこには、煌びやかなドレスを身にまとった人型の妖精たちが並んでいた。


『いらっしゃいませー♡』


フロアの奥には、シャンデリアのような光の花が咲き、壁にはきらきらと輝く蔦が絡まっている。


テーブルにはガラス細工のグラスが並び、妖精たちが笑顔で乾杯している。


空気は甘く、音楽はゆるやかに流れていて——


「大人のお店?」


たぬまりは達観した顔で立ち尽くす。


サキは頭の中がハテナマークでいっぱい。


ひがちーは「なんじゃこれー!」とオーバーリアクション。


モモは「あらまあ……」とおっとりした声で呟いた。




案内してくれた妖精は「ナイトプールフロアもございます」と呟く。


それに反応するよりも早く妖精たちに席へ案内され、おしぼりを渡される。


ドレスの妖精たちにお世話され、グラスが並び、しゅわしゅわの飲み物が注がれていく。




そして——


満を持して登場したのが、その場の誰よりも煌びやかでセクシーなドレスに身を包んだ妖精。




「私が女王でーっす!魔女様のお隣、失礼しまーす♡」




たぬまりの隣にすっと座り、全員がグラスを差し出す。




「乾杯〜♡」


「……もう、もうなにも分からない」




ツッコミどころが多すぎて、誰も言葉が出ない。


そのタイミングで、案内の妖精がスッと近づいてきた。


「こちら、えー、一応、本物の妖精女王です」


「えっ、これが……?」


「はい。このフロアは今代の女王様の趣味が爆発しておりまして……」


「趣味が爆発……」


「昔、夜の蝶様に教えてもらったキラキラの世界を模しているのです」


「夜の蝶はキャバ嬢やろがい!」


「原因そいつだわ」


「このゲームのレーティング的に大丈夫なんだろうか……」




「まぁまぁ、そんな堅苦しい話はいいじゃなーい♪いっぱい飲んで仲良くなりましょ?」


と、女王はグラスを掲げてにこにこしている。




女王に流されるまま、飲み食いし、楽しくお喋りをして——


いよいよ、何をしに来たのか忘れてきた頃。








女王はたぬまりにしなだれかかり、上目遣いをしながら甘ったるく喋るのが当たり前になっていた。たぬまりも動く気力がないのでされるがまま話す。


「ってことがあってぇ……」


「えー?店長さんキビシ〜(笑)」




「そうなんだよぉ、もっと寝ていたかったのに」


「私だったら、そんな風に言わないのにな♡」




「そ、そう?」


「そうだよ♪ね、魔女さま?私のところに来ちゃえば?」


「えっえっ」


「私といっぱい寝よ♡♡♡」


「ひえぇ……」


たぬまりは小さく悲鳴を漏らし、グラスを持ったまま固まる。


遠征組は、もはや生暖かく見守っていた。




そのとき——


マモノ図鑑がふよふよと浮かび上がり、たぬまりと女王の間にぐいぐい挟まりに来る。


「ちょっと!今いいところだったのに!」


女王を無視して図鑑がパカッと開き、光が走る。







【マモノ登録完了:妖精女王グリッタリア】




■登録マモノ:グリッタリア


種族:妖精型


属性:光/魅惑


特徴:妖精の国を統べる女王。きらびやかな装いと奔放な性格が特徴。


性格:自由奔放で甘え上手。気に入った相手にはとことん懐く。


保有スキル:


《魅惑の抱擁》/《煌めきの宴》/《情報の囁き》


コメント:女王。きらきら。すごい。ギラギラ。







「このゲーム……ほんとに大丈夫かな……」


遠征組の誰かが小声で呟いた。




本当に収拾がつかないので、サキが空気を変えることにした。


「おほん。女王様、私たちとあるマモノのことについてお聞きしたくて……」と、


サキが最前線の街でボスに会えない件について話すと、女王は意外とすんなり答えてくれた。




「それなら、門番の条件が揃ってないだけよ〜。妖精卿の記録を見ればヒントがあるわ」


「えっ……ありがとうございます!」




これで攻略に踏み切れる——と思いきや。




女王がたぬまりから離れない。


「この私から情報をもらったのよ〜?無料よりも高いものはないわ♪だから対価に魔女様を頂くわね♡」




「それは困る!」


「や、だめ!」


「返してください~」




遠征組が一斉に反応する。たぬまりもギョッとした。




「じゃあ、試練よ♪」




女王はグラスをくるくる回しながら微笑んだ。




「試練を突破できれば、魔女様を返してあ・げ・る。


さあ、覚悟はいい?」

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