君の笑顔が、僕の季節になる

フリスク

第0章 プロローグ :夢のエレン

あの頃、世界はもっと穏やかで、

午後の光さえ、永遠に続くものだと思っていた。

図書館の隅で、ページをめくる指先。

風がカーテンを揺らすたびに、彼女の髪がきらめいた。


エリックは、彼女の横顔をよく覚えている。

まっすぐで、笑うと少しだけ恥ずかしそうに目をそらした。

名を呼ぶ勇気もなく、ただ、同じ時間を過ごすことが

幸せのすべてだった。


けれど、季節は残酷なほど早く過ぎ去り、

気づいたときには、もう彼女はいなかった。

理由も、さよならの言葉もないままに。


それから何年も経った今でも、

ふとした瞬間に、彼は彼女の笑顔を思い出す。

研究ノートの余白に書きかけた数式の隙間、

試薬瓶のガラス越しに揺れる光の中。


――ねぇ、エレン。

もし、あのとき言葉を選べたなら、

僕たちは何か違う未来に辿り着けたのかな。


彼は、答えのない問いを胸に抱えたまま、

それでも前を向いて生きてきた。

そして、新しい春の日、

彼女とは違う誰かが、再び彼の前に現れる。

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