第21話 星空の下で-二人きりの2泊3日のキャンプ-

金曜日の午後3時。

エリックの車は、高速道路を西へ向かっていた。

トランクには、先週ふたりで買い揃えたキャンプ用品がきちんと積まれている。


「もうすぐだね」

助手席のリサが、窓の外に流れる景色を見ながら言った。

「うん。あと30分くらいかな」


ラジオから軽いポップソングが流れる。

外の景色は少しずつ緑が濃くなり、標高が上がるにつれて空気が澄んでいく。


「山の匂い、懐かしいな」

「子どもの頃、キャンプしたことあるの?」

「うん、家族で一度だけ。テントが風で飛んで、父さんが追いかけてた」

「ふふ、想像つくわ」

二人の笑い声が、夏の車内に心地よく響いた。



Scene 1:キャンプ場到着


午後6時、キャンプ場に到着した。

広々とした敷地、遠くの山並み、そして湖面を渡る風。


「わあ……」

リサの目が輝いた。

「すごいね。写真で見たよりずっときれい」

「うん。ここ、人気なのも分かるな」


受付を済ませて指定のサイトへ車を進める。

木々に囲まれた静かな場所で、近くには小川のせせらぎ。


「ここだ」

エリックが車を停めると、リサは息を弾ませながら外へ出た。

「空気が冷たい……でも気持ちいい」



Scene 2:テント設営


「じゃあ、テント張ろうか」

「手伝うわ」


二人で荷物を下ろし、テントの袋を開く。

金具と布地の匂いが、夏の夕方の空気に混じった。


「えっと……ポールをここに差して……」

「こっち、斜めになってる」

「うわ、風きた!」


テントの布がばさばさと揺れ、エリックが慌てて押さえる。

「リサ、ペグ!早く!」

「はいはい!」


二人で笑いながら必死に押さえ、ようやくテントが形になった。


「……できた!」

ハイタッチの音が、静かな森に響いた。


「写真撮っておこうか」

エリックがスマホを構え、テントの前でリサと並んだ。

数分後、エドガーから返信が届く。


『おお、ちゃんと張れたじゃん!飛ばされてないとは奇跡だな!(笑)』

「もう、からかわれてるし」

「いや、たぶん本気で心配してたんだよ」

リサが吹き出した。



Scene 3:夕食の準備


「さて、晩ごはん作ろっか」

「うん、楽しみにしてた」


クーラーボックスから食材を取り出す。

パスタ、トマトソース、ベーコン、オリーブオイル。


「僕が麺ゆでるね」

「じゃあ、私がソース作るわ」


火をつけようとしたリサが、首をかしげる。

「あれ?つかない……」

「ガス、開いてる?」

「あ、そうか!」


点火ボタンを押すと、青い炎がふっと灯った。

「やった!」

「よし、これで調理開始だ」


ベーコンの香ばしい匂いが漂う。

トマトソースを温めながら、リサが横目でエリックを見る。


「その茹で方……大胆ね」

「男の料理は勢いだよ」

「ふふ、言い訳ね」


笑いながらソースを混ぜ合わせる。

味見をしたリサが、少し驚いた顔をした。

「……美味しい」

「本当?」

「本当。本格的じゃない」

「よかった、料理実験成功だ」



Scene 4:焚き火と夕暮れ


パスタを食べ終えるころ、空が茜色に染まっていた。

「焚き火、やってみようか」

「うん!」


薪を組み、火をつける。

パチパチと音を立て、炎がゆらめく。

その光がリサの頬を照らし、穏やかな橙色を映した。


「こういう時間、いいね」

「うん。静かで、心が休まる」

「エリック、大学の頃からずっと忙しかったもんね」

「リサもでしょ。いつも研究室で夜遅くまで残ってた」

「……お互い様ね」


笑い合い、マグカップのコーヒーを口にする。

湖の向こうでは、夕日が山に沈んでいった。



Scene 5:星空の下で


夜が来ると、森の上に満天の星が広がった。

「……すごい」

リサが小さく息をのむ。

「街じゃ絶対見られないね」

「ねえ、あれ……天の川?」

「そうだね」


二人は焚き火のそばに並んで座り、しばらく空を見上げていた。

虫の声と、薪がはぜる音だけが響く。


「リサ」

「なに?」

「こうして一緒にいられて、嬉しい」

「私も」


リサがエリックの肩に頭を預ける。

「このまま、時間が止まればいいのに」

「止まらなくても、僕が隣にいるよ」


リサがそっと笑った。



「暗くなってきたね」

「うん。でも、もう少し見ていたい」

「明日も見られるよ」

「……そうね」


二人は立ち上がり、手を繋いだ。

足元をランタンで照らしながら、テントへと戻っていく。


夜風が頬を撫で、遠くでフクロウの声がした。

二人の影が、焚き火の名残の光の中で寄り添うように揺れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る