第12話 学内発表-2人のきずな-

1:発表の準備


2月――春学期の始まり。 


「来週の学内研究発表会、僕たちも参加することになったよ」


エリックがリサに報告した。


「私たちの共同研究を?」


「うん。ウィリアム教授が推薦してくれたんだ」


リサの表情が少し緊張した。



「でも、まだ予備的なデータしかないわ」


「それでも、アプローチの新しさを評価してもらえたみたいだよ」


エリックが嬉しそうに言う。


「精神的介入が細胞から神経まで包括的に影響するという仮説は、確かに興味深いテーマね」



その日から、二人は発表準備に追われた。


スライド作成、データの整理、発表の練習。


「この図、もう少し見やすくできない?」


リサがパソコン画面を見ながら言う。


「これで良いかな?」


エリックがグラフの色を調整する。



2:役割分担


「発表はどう分担する?」


リサが尋ねた。


「僕が導入部分と細胞レベルの話、リサが神経系の話と結論部分はどう?」


「それがいいわね。でも、エリック大丈夫?」


リサが心配そうに言う。



「大丈夫?というのは?」


「人前で話すの、緊張しない?」


「確かに…少し緊張するけど、頑張るよ」


エリックが不安そうに答える。


実際のところ、エリックは人前での発表が苦手だった。



3:練習の日々


発表会の3日前から、二人は毎日練習を重ねた。


「えー、私たちの研究は…」


エリックが練習を始めるが、途中で詰まってしまう。


「ごめん、まただ。やり直すよ」


「落ち着いて。ゆっくりでいいのよ」


リサが優しく励ます。



「でも、本番では時間制限があるし…」


「時間より、内容を正確に伝えることが大切よ」


「リサは人前で話すの、平気なんだね」


「慣れてるだけ。エリックも大丈夫」



その夜、エリックは一人で練習を続けていた。


鏡の前で何度も同じ箇所を繰り返す。


(明日はリサと一緒だ。失敗するわけにはいかない)



4:発表当日の朝


発表会当日の朝、エリックは早めに研究室に到着した。


既にリサも来ていて、最終チェックをしている。


「おはよう。調子はどう?」


「おはよう。正直、緊張してる」


エリックが正直に答える。



「大丈夫。私たちの研究は素晴らしい内容よ」


リサが微笑みかける。


「それに、一人じゃない。二人で発表するんだから」


その言葉に、エリックは少し安心した。


「ありがとう」



5:いよいよ発表


講堂には多くの学生と教授陣が集まっていた。


「次は、エリック・コール氏とリサ・ホイットニー氏による『精神的介入の包括的影響に関する研究』です」


司会者がアナウンスする。



壇上に立ったエリックとリサ。


エリックの手が少し震えているのを、リサは気づいていた。


「皆さん、おはようございます」


エリックが発表を始める。


最初はぎこちなかったが、徐々に調子を取り戻していく。



「細胞レベルでの観察では…」


エリックが自分の専門分野に入ると、緊張が和らいできた。


研究への情熱が、不安を上回り始める。


聴衆も興味深そうに聞いている。



6:リサのサポート


「続いて、神経系への影響について、パートナーのリサから説明します」


エリックがリサにバトンを渡す。


「ありがとう、エリック」


リサが自然にマイクを受け取る。



リサの説明は流暢で分かりやすかった。


複雑な神経科学の内容を、聴衆に理解しやすく説明している。


エリックは横で聞きながら、改めてリサの優秀さを実感していた。


(リサって、すごいな…堂々としてる)



7:質疑応答での連携


発表後の質疑応答タイム。


「細胞レベルと神経レベルの相関について、もう少し詳しく教えてください」


ある教授からの質問。


エリックが答え始めたが、途中で言葉に詰まった。



その瞬間、リサが自然にフォローした。


「エリックが説明した細胞のストレス応答と、私の研究する神経可塑性は、実は共通のメカニズムを持っています」


そして、エリックに向かって微笑んだ。


「エリック、補足があれば」



「はい。リサの説明に加えて…」


エリックが落ち着いて答える。


二人の息の合った回答に、聴衆からも好意的な反応が返ってきた。



8:発表終了後、エリックの涙


「お疲れ様でした」


壇上から降りた二人。


「エリック、後半とても良かったわ」


「リサがフォローしてくれたから……」


エリックの声が少し震えている。



「そんなことない。あなたの説明、とても分かりやすかった」


「でも、途中で詰まった時…僕、本当にダメだと思って…」


エリックの目に涙が滲んできた。


「リサがいなかったら、完全に失敗だった」



「エリック…」


リサが優しく微笑む。


「でも、最後まで諦めなかったでしょう?それが一番大切なの」


「チームワークよ。私たちは共同研究のパートナーなんだから」



「本当に…ありがとう…」


エリックが涙を拭いながら深く頭を下げる。


その素直で一生懸命な姿に、リサの心も温かくなった。


(この人は、こんなにも真摯に研究に向き合ってるのね)



9:エドガーからの評価


「おい、二人とも!」


エドガーが駆け寄ってきた。


「すごかったぞ!特に質疑応答の連携」


「エドガーも聞いてくれてたんだ」


エリックが、嬉しそうに笑顔を見せる。


「もちろんだ。友達の晴れ舞台だからな」



「お前ら、本当にいいコンビだった」


エドガーが感心して言う。


「まるで息の合ったコンビみたいだったぞ」


「コンビって…」


エリックとリサが同時に赤くなる。



10:成功の余韻


その日の午後、二人は図書館のカフェで発表の振り返りをしていた。


「本当に、ありがとう。」


エリックが改めて感謝を述べる。


「リサがいなかったら、僕だけではきっと失敗してた」



「そんなことないわ。エリックの研究への情熱が伝わってきた」


「でも、途中でフォローしてもらって…」


「だから、それがチームワークだって言ったでしょ」


リサが微笑む。


「私たち、いいパートナーね」



「うん。研究パートナーとして、友達として、よろしく!」


エリックが嬉しそうに言った。


その時、二人の間に流れた空気は、単なる研究パートナーを超えた何かがあった。



11:新たな絆


「今度は国際学会にも挑戦してみない?」


リサが提案した。


「国際学会!?」


「今日の発表を見てて思ったの。私たちの研究、もっと多くの人に知ってもらう価値がある」



「でも、僕のプレゼンで大丈夫かな…」


「一緒に準備すればいいじゃない」


リサの自然な提案に、エリックは心が弾んだ。


「お願いします!」



発表会での成功は、二人の関係をより深いものにしていた。


研究パートナーとしての信頼関係が、確固たるものになった瞬間。


そして、お互いを支え合うことの喜びを、二人は実感していた。


夕日の差し込む図書館カフェで、二人は次の目標に向けて話し合いを続けた。


この共通の経験が、やがて二人の心を結びつける大切な思い出の一つになることを、まだ知らずに。

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