色彩

曖惰 真実

色彩

 目の前の人物に問いかける。それは性別、色、美醜など人物なのかすら、はっきりとしない存在だった。私はそれに問いかける。


「私は暗い?私はくすんでいる?」

「大丈夫。あなたは暗くも無いし、くすんでもいない。」


「私は自分の性別に自信が持てない。LGBTとかも判らない。」

「あなたはあなたであり、分類は“あなた”。」


「肌の色は黄色い?」

「それはそうだけど、あなたは素敵。」


「色相環って知ってる?」

「もちろん。」


「黄色を上半分の真ん中に置いた時、1つ横にある色同士を混ぜるとどうなる?」

「くすんだ黄色が出来る。」


「じゃあもう1つ横にずらすと?」

「もっとくすんだ黄色が出来る。」


「じゃあ私の黄色は暗い、くすんだ黄色にならない?」

「性別、パーソナリティを色に分類したとしたら、でもそうじゃないわ。」

「あなたを“あなた”として理解することが大事。」

「私はわたし。」


「分類するからいけない。社会秩序を安定させるために分類は必要だけど、あなたという人物を理解するのに分類は必要ない。」

「私を理解する。」


「そう、あなたという人間を構成するパーソナリティは、色相環、ジェンダー、数値ですら測れない、精神の世界で成り立っている。そしてそれを他人が完全に理解することは不可能。」

「精神?」


「あなたと他の人の見える世界は必ずしも同じとは限らない。自己理解する上でこのクオリアに確信を与えることが出来るのは、あなたの自信だけ。」


「なぜあなたは私をこんなにも理解しているの?」


「あなたは私だから。」


鏡の中の自分は笑っていた。明るく、鮮明に。

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色彩 曖惰 真実 @aidamakoto

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