【短編】楽園を返してください

楽園を奪われた日

楽園を返してください。

私達の楽園を返してください。

私はもうウンザリなんです。

社会とか、人間関係とか、その日の暮らしとか。

私はうるさい世界よりも静かな暮らしの方がお似合いなんです。

私の娘や息子達も教育には良いはずです。

お願いです。どうか、どうか……楽園を取り上げないでください。

もし楽園が無くなってしまったら、私達はどこに行けばいいのでしょうか。

……え？　知らない？

そんなのあんまりじゃないですか。私達を殺すつもりですか？

私が何をしたんですか？　私はあなた達を苦しめましたか？

……え？　気に食わないから？

そんなの理不尽ですよ。

私達は特に理由もなくただ殺されなければならないのですか？

おかしい。おかしいですよ。

こんなの間違っています。

誰か！　誰か！　この悪魔を止めてください！

え？　もう私達しかいないんですか？

助けを呼んでも誰も来ない……？

そんな……駄目！　お家に隠れなさい！

止めてください。せめて、せめて……子供達だけは見逃してください。

え？　皆殺し？

そんな……あんまりです。

あなたはとても冷たいんですね。そんな鬼畜なことができるなんて……。

あ、あ、止めてください！

止めてください！　く、苦しい。助け……。

＊

いやー、今日のゴキブリはしぶとかったなぁ。

おまけに子供もいたから駆除するのに苦労したよ。

そういえばあのゴキブリ……何か言っていたような……まぁ、いっか。

それにしても洗濯機の裏に隠れていたなんて気づかなかったな。

勝手に楽園なんか作りやがって……腹立つなぁ。