第8話 世界一の幸せ者

「おめでとう、君はもう自由だよ、

今までよく頑張ったね。

ごめんな。辛かっただろう。痛かっただろう」


僕はもう自由?もう誰にもいじめられないの?


「あぁ、今日から君は私たちの家族だよ」

おじさんが僕をギュッと抱きしめる。


「もう大丈夫よ、怖い人はいないわ」


おばさんが優しく微笑みかけてくれる。


「これからよろしくね!」

おねえちゃんが明るく言う。


ホッとしたと同時に涙が溢れた。

僕はお母さんから叩かれたり

蹴られたりしていたんだ。とても痛くて怖かった。

けいさつの人はぎゃくたいと言っていた。


今まで辛かった。

だけど、これからはおじさん達が

守ってくれると言ってくれた。


「行こう、翼くん」

おじさんが僕に手を差し伸べた。

「うん」

僕はおじさんと手を繋いで歩き出した。




 僕は幼い頃、母に虐待を受けていた。


当時、母は毎日のように

家を空ける父に悩んでいた。


父は出張と称して愛人の元に出かけていたからだ。


母の瞳から光が消え、

僕をぞんざいに扱うようになり

しまいには殴る、蹴るなどの暴行を受けていた。


そんな時、僕を救ってくれたのは

父の兄である伯父家族だった。


伯父さんは何度も謝ってくれて、

僕を引き取りたいと言ってくれたのだ。


あれから十年経った今

僕は高校一年となり幸せに毎日を過ごしている。


あかりニンジンを残さない!」

伯母さんがいとこの灯に厳しく言う。


灯ねーちゃんは高校三年生だ。


「お母さん、苦手なものは仕方ないじゃない。

ニンジンって後味が嫌なのよ!」


「こら、灯!好き嫌いして彼氏に

嫌われてもいいのか?」


伯父さんが新聞から顔をあげる。


「ひろくんは、そんなんで私を

嫌いにならないもん!超絶優しいんだから!」


僕は苦笑いを浮かべた。


「ねーちゃん、食べないと健康に悪いよ」


「……翼が言うなら仕方ないわね。食べるわよ!」


「灯は本当に弟ラブだなぁ」


「そうね、ふふふ」


伯父と伯母が微笑ましいというように

僕たちを見ている。


「翼が来てくれたおかげで、毎日楽しいよ」


伯父が微笑む。

僕は気恥ずかしくてうつむいた。


「ぼ、僕もみんなと一緒にいるの楽しいです」


「翼くん、可愛い!!」


伯母さんが僕を抱きしめる。


「あら!私だって楽しいわよ!」


ねーちゃんが後ろから僕を抱きしめた。


「みんな、ありがとう。僕は世界一の幸せ者だよ」


僕は笑顔を見せた。


父と母とはうまくいかなかったけど

僕をこの世に生み出してくれたことに

感謝している。


伯父家族の一員になれたのだから。


ああ、何で幸せな日々なんだろう。


不幸だった僕は

今、世界一の幸せ者だ。



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