第7話 ◯◯の恩返し
ピチョン、ピチョン、ピチョン
水の滴る音にわたしは顔を上げた。
「雨だ」
わたしは雨が好き。
外に出て雨を感じ、土の匂いを感じる。
そうすると、生まれ変わったみたいな気持ち
になるの。
いつものように外に出て雨を感じていると
車のライトがわたしを照らした。
轢かれる!!
そう思った次の瞬間、わたしの体が持ち上げられた。
わたしよりちょっと上の
小学五年生くらいだろうか。
「こんなとこにいるとあぶねーぞ」
そう言ってわたしを道路から離れたところに
下ろしてくれた。
その瞬間、わたしは恋に落ちた。
この世界で誰もわたしを
守ってくれる人なんていなかったから。
「ありがとう」と伝えたかったのに、彼はそそくさと帰っていってしまった。
それから、彼を見ることはなくなったのだけど、
一つわかったことがある。
彼の名前はリョータくんというらしい。
近所のおばさんの息子さんがリョータくんと友達らしい。井戸端会議しているところを盗み聞きした。
わたしはリョータくんの友達(確かハルトくんというらしい)を追いかけて学校まで行った。
恋というのは力をくれる。
わたしは体が小さいから少し走っただけでも疲れる。
だけど、リョータくんが学校にいると思うと
頑張れた。
学校でサッカーをしているリョータくんと目が合う。
「あの、わたしのこと覚えてますか?」
「お前、あのときの。てかなんでここに」
「わたし、リョータくんにお礼が言いたくて」
「リョータ!何してんだよこんなとこで」
ハルトくんが近寄って来た。
そして、「げっ」と一歩後ずさった。
「カエルじゃん!!」
「あぁ、前言っただろ。コイツ車に轢かれそうになってたカエルだよ。」
「嘘だぁ、それにお前
なんで同じカエルだって分かるんだ?」
「ほら、オタマジャクシだったときのしっぽがまだあるだろ。これが目印だよ。」
「ホントだ!しっぽある」
「あの」
わたしはリョータくんに向き合った。
たとえ、言葉が通じなくても、
想いは通じなくてもこれだけは伝えたい。
「あのときは、ありがとう。」
「こいつなんかケロケロ言ってるぜ?」
するとリョータくんはふっと笑って
「カエルの恩返しかもな。」
とわたしを見た。
わたしも笑い返す。
雨が降って来た。
ピチョン、ピチョン、ピチョン。
「わ、雨だ!中入ろうぜ」
ハルトくんの言葉にリョータくんは頷きわたしに手を振った。
もう二度と彼に会うことはないだろう。
でも、わたしは雨音がするたび、
君のことを思い出すよ。
バイバイ、リョータくん。
(終わり)
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