第2話 歴史の知識
「しかし、マジでこんな得点取る奴がいたとはな」
吾郎は俺のテストの答案用紙を見て呆れた声を出す。
「吾郎。お前は何点だったんだよ」
どうせ頭のいい吾郎だから高い得点なのは分かっている。
「全教科100点だ」
「は?」
俺の聞き間違いか? 全教科100点って言わなかったか?
「すまん、吾郎。もう一度言ってくれ」
「だから全教科100点だ」
「マサ兄、吾郎は学年首位だよ」
武の奴が補足する。
「100点!? なんだよ、その化け物みたいな数字は!!」
俺は思わず大きな声をあげてしまった。
「人を化け物扱いするな。っていうかマサトの点数の方が人間とは思えん」
ほお。俺を人間以下扱いにしやがったな。
「やる気か? 吾郎?」
俺は殺気を出して吾郎を睨んだ。
「いつでも相手になるぞ。マサト」
吾郎はニヤリと笑って俺たちの間に火花が散った。
「はいはい。二人とも喧嘩はダメでしょ。ダーククラブの規約でクラブ内の人間の殺し合いは禁ずるってなかった?」
「殺さなきゃいいんだろ?」
「マサくん! 再テストで赤点取ったら夏休みはないのよ!」
ぐっ。俺は美由紀の言葉に反論できなかった。
そうだ。ここはちゃんと勉強して夏休みは遊ぶんだ。
「じゃあ、まずは社会からやるか。日本史だな」
吾郎がペラペラと教科書のページをめくる。
「織田信長が死んだ後にその部下で関白にまでなった人物は誰?」
「え~と、誰だっけかな~」
「ほらマサ兄。信長に猿って呼ばれてた人物だよ」
武がヒントをくれる。
「分かった! とよしんひできちだ!」
「はあ? 誰だよ。とよしんひできちって?」
「だからこいつだろ」
俺はノートに「豊臣秀吉」と書いた。
「な。とよしんひできちだろ?」
吾郎は引きつった顔をして言った。
「お前。これは『とよとみひでよし』って読むんだよ!」
「え!? マジで。俺、ずっと『とよしんひできち』って思ってたぜ」
吾郎と美由紀は頭を抱えている。
「気を取り直して次の問題いこうよ。マサ兄」
武は明るく俺に声をかける。
「じゃあ、いくよ。戦国時代甲斐の国、今の山梨県付近を治めていた有名な戦国武将は誰?」
「はあ? かいのくに? 山梨県って……う~ん、分からん」
「答えは武田信玄だ」
拓也が俺に言う。
「たけだしんげん? そいつって有名人なのか?」
「武田信玄を知らないのか!?」
「知らん。初めて聞いたな」
俺が正直に答えると皆信じられないという表情をしている。
「武田信玄を知らない奴がいるとは……こいつは手ごわいぞ」
吾郎が真剣な表情になった。
それから俺は時間の許す限りみっちりと吾郎から歴史の勉強を教わった。
ちっ、昔生きてた人間がなんだっていうんだよ。
大事なのは今だろうが。
俺はやけっぱちになりそうになったが夏休みの補習を回避すべく我慢をした。
その日の夜。
ダーククラブのメンバーが帰って俺と美由紀の二人きりになった。
美由紀はベッドでスマホをいじってる。
だが美由紀は浮かない顔をしている。
「どうかしたのか? 美由紀」
俺が声をかけると美由紀はベッドに横になりながら言った。
「最近、萌ちゃんの元気がなくてさ」
「萌?」
「同じクラスの神田萌ちゃんよ。図書委員してる子」
俺は記憶の中で神田萌なる人物を思い出す。
いつも大人しくてあまり目立たない女子だが美由紀とおしゃべりしているところはよく見かけた。
「その萌ちゃんがどうしたんだ?」
「前は街に一緒に買い物とかも行ってたんだけどここ一ヶ月前ぐらいから表情が暗くて何かに怯えてる感じなのよね」
「ふ~ん。いじめにでもあってるのか?」
「そういう感じでもないんだけど……」
美由紀は黙ってしまう。
「悩み事があるようなら訊いてみたらどうだ?」
「うん。訊いてみたけど『何でもない』としか言わないのよね」
「ふ~ん」
俺はこの時に聞いた神田萌という人物がこの後の事件に関わっているとは思ってもみなかった。
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