勇者たる者
クレアが一歩、前に進み出て来た。
とは言っても、別にユミナと喧嘩するとかそういう雰囲気でもない、むしろ何となく戸惑っているような雰囲気でもある。
「貴方がエデン・ミラーシュなのですか?」
って、質問は俺に対してかい。
そうだ、ユミナは俺の事をエデンと呼んでいたし、「新しい勇者を作ろう」とか言っていたから、注意して聞いていれば、俺がエデンだってわかるな。
『そうでち。こいつがエデン・ミラーシュでちよ。このメリオンプルセーヌ・フォン・ド・ブランドフェレールが保証するでちよ』
「ですが、街には自分がエデンだと名乗る人がいましたが?」
あぁ、そうだ。
元々クレアは、偽エデンを遠巻きに見ていて、それで諦めたところで話をしたんだった。
エデンだと思っていたやつが真っ赤な偽物で、まさか本物と行動していたとなれば、本人もびっくりではあるだろうな。
「そういう偽者はいくらでも出て来るものです。いかにして本物を見つけるか。そのためには貴族の家に侵入して盗聴器をこっそりと置いておく必要があったわけです……」
どや顔で解説するユミナ。
って、盗聴器まで設置していたのか!?
勇者法をタテにやりたい放題やっていないか!?
村人も全員黙ってしまったぞ。
俺が本物のエデンだということが相当にショックだったんだろうな。
何人か「おまえのせいでクレアが死にそうになった」とか悪口も言っていたし。
『おまえ達にエデンの文句を言う資格はないでちよ。仮にエデンが名乗っていたとしても信じなかったのは、このアタチにはお見通ちでち!』
メリーもどや顔で言い放ち、村人がそれで黙ってしまった。
クレアは迷った様子だが、それでも下がらない。
「それは分かりました。ただ、本物のエデンさんであってもなかったとしても、助けてもらったお礼をしていないので、それだけはさせてください」
「お礼……?」
あ、まあ、確かに、俺……というかメリーがカネモウケ伯爵のところにいた連中を一網打尽にしたし、カネモウケ伯爵の工場から流れ出たもののせいで川が汚れていたということも教えた。
そのお礼は確かにしてもらっていない、とは言える。
いや、別に期待してはいなかったけれど、クレアは律儀だからそういうところはきっちりしたいのだろう。
「そんなことには及びません。時間の無駄です」
ユミナはそう言って、袋を取り出して、中から金貨を何枚かクレア達の前にバラまいた。
「……?」
「時間の無駄ですから、それでも拾って残りの期間を楽しく過ごしなさい」
呆気にとられるクレアは、まずユミナを、次いで地面の金貨を、そして俺を見る。
何とも言えない悲しそうな表情に、俺は数日前までの俺を見た。
その瞬間、思わず俺は行動してしまった。
バシッと乾いた音とともに、俺の平手がユミナの頬を叩いていた。
「あんたは、俺のこともそんな風に思っているんだろうな」
子供を作った後、「ご苦労様」とばかりに金貨を何枚か俺の前にばらまく。
昔、こんな風な態度をとった奴隷主もいた。金をばらまけば何でもやると思っているような態度も腹が立ったが、それでも金が欲しいと必死になる俺達も惨めだった。
こいつのやっていることはそれと同じじゃないか。
「俺は、この国にどんな人がいるか知らないけれど、アンタよりもっとマシな勇者になれる人はいっぱいいるんじゃないか?」
※盗聴器と言っても、現代社会にあるようなものではなく、魔法具のようなものと考えてもらえれば。
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