第18話 — 見るしかない者

「レンが最も恐れていたのは——

ノゾミが苦しむことではなかった。

彼女が苦しんでいるのに、何もできないことだった。」





レンはただ、怒りと無力感に支配されていた。

シンジがノゾミの腕を掴み、ドアの方へ引きずっていくのを見ているしかなかった。


その傍らで、あの老いた魔女はまるでレンを弄ぶように言った。


「未来は、望めば歪めることもできたのよ。」


その瞬間、彼を慰めるものは何もなかった。

魔女の謎めいた言葉も、

自分の感情も、

ノゾミからのメッセージすら——

願いを叶えた時点で、彼はもう携帯を持っていなかった。


考えはシンジにばかり向かう。

ノゾミに集中したいのに、

すべてはシンジから始まる。


もし、ほんの少しでも彼を押し返せたら——

それだけで、今の状況を少しでも和らげられる気がした。


魔女は静かにソファから立ち上がり、

レンの体をすり抜けて歩き、

彼の目の前に立った。


その行動は、レンの怒りをさらに煽った。

魔女でさえ彼の体を通り抜ける。

ならば、自分には何ができる?

何ひとつ、動かすことすらできない。


頭の中は、シンジに対して何をしてやろうかという妄想でいっぱいだった。


魔女はさらに問いかける。


「ここに留まりたいの?

何も良いことは起きないわ。

背を向けても、留まっても——

この先に起こることは変わらない。」


その言葉が、ようやくレンの耳に届いた。

怒りと苦しみに満ちた彼は、魔女に向き直る。


「教えてくれ…

ここでできることはあるのか?

どんなに小さなことでもいい。

お願いだ、教えてくれ!

このままじゃ、見ているだけで壊れそうだ。

でも、彼女を置いていくなんて…

何が起きたのかも知らずに、離れるなんてできない。」


魔女は驚いたような表情を見せた。

何かが彼女の心に触れたようだった。


そして、再び謎めいた言葉を返す。


「できることは一つだけ。

すでに伝えたはずよ。

この出来事の後に、未来を変えるために必要なこと。

あなたはもう答えを持っている。

でも…自分に問いかけたことはある?」


その言葉は、完全には理解できなかった。

けれど、レンの中で何かが繋がった気がした。


だが、考える間もなく——

彼は再びシンジに目を向けた。


そして、すべてを忘れた。


目の前の光景が、あまりにも衝撃的だった。


ノゾミが椅子に座らされ、

シンジが彼女の手首を自分のベルトで縛っていた。


そして、シンジが彼女に投げかけた言葉は——

一生分の痛みを与えるものだった。


「教えてくれ、ノゾミ。

レンって誰だ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る