第4話 初戦闘

 翌日、あえて何事もなかったかのように登校した俺だったが、やはりと言うべきか友人達から質問攻めに遭った。


 「なぁキュート、【アヘ顔】のスキルを手に入れたって本当か!?どんな効果なんだよ!?」


 「んなわけねぇだろ、誰が言ったんだよそれ」


 問いただすと、ダンジョン体験での俺の発言を聞いていた人が勝手に変な解釈をしてしまっていたようだ。


 そこから伝達ミスを重ねに重ねまくった結果、俺のスキルが女性にアヘ顔を強要させるものだということになっているらしい。


 アヘ顔を強要するという部分は当然事実無根なのだが、スキルの対象が女性であることなど、所々【壁尻】と似ているというのがまた腹立たしい。


 「そういえば、もう一人のスキル保有者って誰なんだ?」


 「あれ、キュートは知らないのか?ウチのクラスの委員長だよ」


 どうやらあの時に聞こえた騒ぎは委員長がスキルを手に入れた時のものだったらしく、スキル名までは知られていないものの、俺以上に学校中で話題になっているようだ。


 「噂をすれば、委員長がやってきたぞ」


 友人達の目線の先には俺達のクラスの委員長、萌黄もえぎ四葉よつばが記者と化したクラスメイトに囲まれながら席につこうとしていた。


 萌黄は黒髪ロングの美少女で、スラリとした体型と漫画でしか見たことがないようなモノを併せ持っている。


 その容姿だけでも男女問わず大勢の生徒を虜にしているのだが、更に萌黄は学年トップを競う学力と、委員長という肩書きに相応しい方正さを持ち合わせているのだ。


 このあまりにも完璧すぎるスペックによって前々から人気を博していたのもあり、周囲の熱気は俺の比ではない。

 

 ◆


 放課後、萌黄が巨大な人団子を作っている合間に教室を脱出することに成功した俺は、ダイレクトメールが来ていることに気づく。


 差出人の名は『よつば』、つまり萌黄である。


 曰く、情報交換のため、ダンジョンで会えないかとのことだ。


 当然、二つ返事でこれを了承し、この後最寄りのダンジョンで集合することになった。


 あの状態からダンジョンへ向かえるのかと些か疑問に思うところはあるが、あの萌黄が言ったことなのでなんとかするのだろう。



 ダンジョンは複数の迷路状の階層から構成されており、ゲートと繋がっている階層を第一階層として、下の階層へ進むほど階層の数字が増えていく。


 当然ながら、下の階層では強いモンスターが生息している。


 そのため、許可証を手に入れたばかりの初心者は、まず第一階層で戦闘の練習をするのがセオリーになっている。


 約束の時間より早めに到着した俺は、密会できる場所を見つけるためにダンジョンへ入る。


 人目のつかないところを探しながら通路を進むと、見たことのあるシルエットが前方に現れる。


 「あれは......ゴブリンだな」


 すかさず曲がり角へ戻って隠れる俺。


 現在の俺の装備は金属バット一本。


 対するゴブリンの手には何もないものの、その素早い動きと鋭利な爪で怪我を負う探索者も多いという。


 だが、俺にはスキルがある。


 「いけ!俺の【壁尻】!」


 俺の手から放たれたオーラはゴブリンを包み、壁に衝突させる。


 どうやらゴブリンはメスだったようだ。


 ゴブリンの下へ駆け寄った俺は、壁に埋め込まれたその尻にバットの一撃を叩き込む。


 殺傷力はないはずだが、何度も叩き続けた結果、ゴブリンの動きが止まる。


 念の為数発追加でケツバットを打ち込み、スキルを解除すると、気絶したゴブリンが壁から吐き出される。

 

 人型の生命体を殺すことに一瞬躊躇うが、覚悟を決めた俺はゴブリンの頭部を思いっきり叩き潰す。


 あっさりと絶命したゴブリンの身体は次第に塵となって消えていき、跡にはビーズほどの小石だけが残った。


 「これが魔石か......」


 ゴブリンが無事消滅したことに安堵を覚えつつ、独特の輝きを放つ紫色の石を見つめる。


 魔石にはスキル使用時に放たれるオーラの素である魔素が結晶化したもので、ゴブリンのようなモンスターを生み出すとされているが、詳しいことは未だ判明していない。


 一方で、その用途については研究が盛んであり、抽出された魔素を取り込むと地上でスキルが使えるようになるのは有名な話である。


 しかし、その際に必要になる魔石の量は膨大で、俺が今拾った魔石では何の足しにもならないレベルだ。


 まあこんなもんかとため息をついた俺は、一応記念にと魔石をポケットへ突っ込む。


 そのついでにポケットから取り出したスマホを確認すると、待ち合わせの時刻が迫っていた。


 幸いなことに、今いる通路には人の気配がないため、スキルの話をするにはもってこいだ。


 ダンジョン内では何故か通信が機能するため、現在地に誘導するようにメッセージを送る。



 聞こえたきた足音の方向を見ると、萌黄がこちらへ向かって歩いてきていた。


 「すまん、待たせてしまったな、白壁君」


 「全然気にしてないですよ、萌黄さん」


 萌黄は学校でのイメージとはかけ離れた、芋っぽい作業着を身につけているが、それすらも着こなしてしまっている。


 「早速だが本題に入ろう、お互いどんなスキルを手に入れたのか共有し合わないか?」


 萌黄の提案は予想通りだった。


 ダンジョンでは数人単位のパーティで攻略するのが基本なのだが、その中にスキル持ちが3人いれば良いとされている。


 当然、パーティ内ではスキルの詳細を開示する必要があるため、信頼できる者同士で組むのが理想だ。


 その点、俺と萌黄はクラスメイトであり、俺が委員長である萌黄のことを知っているのは勿論、仕事熱心な萌黄も、クラスメイト全員の人柄を把握していてもおかしくない。


 萌黄がパーティを組んでダンジョン攻略をするかどうかは定かではないが、少なくとも俺にとっては、ここで萌黄を仲間に引き入れておきたいことは確かだ。


 「わかりました、せーのでスキル名を言いましょう」


 正直なところ、あの時みたいに困惑される未来しか見えないが、ダンジョン攻略のためなら仕方ない。


 「わかった、ではいくぞ」


 「せーのっ」


 「【壁尻】」


 「【ハイポーショってえ?壁尻!?」


 せめて最後まで言い切れよ。

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