第1話

 朝目覚めると、重苦しい気分になる。部屋のクローゼットに入ってる、可愛くもない制服。それを取り出して袖を通す。

 学校という場は、どうしてみんなと同じことをさせるのか。不思議でならなかった。



 リビングに行っても、誰もいない。

 うちはママとふたりで暮らしていた。ママは昨日、帰って来なかったらしい。ママの部屋は、昨日と同じように散乱したままだった。ため息を吐くと、あたしはママの部屋を閉めた。



 見たくない。

 ママの部屋。



 ママは昼間。

 この部屋の中に、男を連れ込んでヤっていたんだろう。その後仕事に出たきり、帰って来ていない。



 あたしは人として、冷めているのかもしれない。普通、自分の親のそんな現場を目撃したら、驚愕するに決まってる。だけどあたしは何も感じることなく、その横を通り過ぎるだけだ。そして終わったママは、何も言うつもりもないのか。あたしと顔を合わせることもしないまま、家から出て行く。

 それが当たり前になっている。



 学校であたしが問題視されていることも、知らん振り。別になんか言って欲しいと思ってるわけじゃないけど、あたしは学校から冷たい目線を向けられている。



 家を出たいと何度も思っている。でも家を出れないことも分かっている。あたしはまだ働くことも出来ない、ただのガキだから。



 家の中も四角。

 学校も四角。



 どうしてこうも同じなんだろう。

 毎日、同じことの繰り返しでイヤになる。



 それがイヤなだけ。

 ただ、それがイヤなだけ。



 あたしは、自分がどうしたいのかも分からない。

 無力な自分にイヤになる。

 誰もあたしのことを、理解はしてくれないだろう。学校のクラスメートも、理解はしないだろう。



 テーブルの上に置かれている、万札1枚。今週はこのお金でという。

 あたしはそれを財布に入れて、家を出る。



 コンビニに立ち寄って、パンとお茶を買う。そして歩きながら、あたしはそれを食べる。

 それがあたしの日課だった。



 コンビニの前には、イカツイお兄さんたちが、いつもと同じようにして座って話していた。いつもあたしの顔を見ては、また話すという状態。

 何か用があるわけでもないらしい。



 ただ、見ているだけという状態。



 そしてその傍を、あたしは気にしないで通り過ぎていく。



 ただ、気にしないだけ。



 そうやって毎日、同じことの繰り返しだ。

 毎朝会う、コンビニの店員さんも。あたしに不審がることもなく。



 ただ、あたしにパンを売る。



 それだけのこと。

 どこに行っても四角い箱の中にいる、あたし。

 家も四角い。

 学校も四角い。

 立ち寄るコンビニも四角い。



 ──どうして、こうも四角いんだろう。



 あたしの目に映るものの全てが、四角い。

 持っている通学カバンも四角い。

 生徒手帳も四角い。

 筆箱も教科書もノートも四角い。



 この世の中、四角いものだらけだ。

 四角いものを見ると、ウンザリしてくる。パンを食べながら、あたしは四角い箱の中へと入って行く。

 門ではまた、頭の固い大人の代表が立って、あたしを見据えている。今日もまた四角い部屋で、四角い紙に反省文なんてものを書かされるだろう。



「小花!」

 門を通り過ぎようとしたあたしに、先生が叫ぶ。



 いつもと同じ。



 門のところで、あたしを待ち構えている。あたしをジロッと見ては、頭に怒りマークを出してくる。

「お前はいつもっ!」

 怒鳴り声は、四角い校舎の中まで聞こえるんじゃないかってくらいだ。

 あたしは今日もまた短いスカート履いて、マニキュアつけて髪を赤く染めて、メイクをしているだけ。



 ただ、それだけなのに。

 どうしてそれがいけないんだろう。

 あたしはそれが不思議でならない。

 これをやめたらあたしじゃなくなるのに。



 は、と言う。

 いい加減、ウンザリしてきた。

「小花。放課後、生徒指導室に来い」

 がそう言う。

 だけど、それに答えることなく、あたしは自分の四角い箱の中へ入って行く。そんなあたしを見て、他の生徒たちは「またか」なんて思っているんだろう。



 でもあたしは構わなかった。

 でいられるなら。他のことなんかどうでも良かったんだ。


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