7.男子生徒4

 二週目の図書当番の日も、早川実里は図書室にやってきた。進まぬ装填作業を見かねた担当教師が早川実里に再度依頼したらしい。どんなやり取りがあったか詳しくは知らないが、金曜日だけなら、と了承したようだ。段ボールに入った未装填の本は先週見た時からほとんど減っておらず、僕たちくらいしかきちんと取り組んでいないのではないか、とも思う。僕も早川実里が来ていなかったらほとんど作業を進められてはいなかったと考えられるので、深く言及はできない。もう一人の図書委員がいないことに関しては、察するところがあったのか、何も追及されなかった。

 先週会話中に失敗したという後悔が頭の中にあったために、僕からの話題の提出は無難なものばかりになっていたが、そこはさすがの早川実里である。不自然で気まずい空気が流れることもなく、帰宅の時間まで作業は続いた。その日は僕も少しは慣れた手つきで作業を進めたため、先週よりも若干多くの本が貸し出し可能な状態になった。それでもかなり多くの未装填の本が残っている。

 

 そんな翌週、一年生の僕にとって最後の夏期補習の週の木曜日、登校中の駅の改札前に早川実里の姿を見かけた。実はこれまでも夏休み中に何度か見かけることがあったが、その時はあの投身未遂の先輩と一緒に学校へ向かう後ろ姿だけで目線が重なることはなかった。

 しかし今日、改札から排出される人たちに目線を向けていた早川実里と目が合った。あ、と言うような表情と共に小さく手を振ってくる。軽く会釈をして、人の流れに沿って早川実里に近づいた。

「おはようございます。」

「うん、おはよう。」

 あの早川実里に個体認識されていることが素直にうれしい。

「明日も図書委員、よろしくね。」

 よろしくお願いするのはこちらの方であるが、あえて指摘したりなどはしない。普段人と話さない僕にとって、この人は会話数で言えばかなり上位に入る相手であるが、それでもここで長話をするほどの関係性ではない。ましてや時間のあまりない朝の時間だ。お願いします、と言って高校へと歩き出す。

 途中、一度だけ振り返ると、早川実里は改札前で人の流れを眺めていた。

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