第34話 炎の誓い ― 第三十四話「運河に映る月」

冷たい夜風が頬を撫でた。

目を開けた悠真は、石畳の上に倒れている自分に気づき、慌てて身を起こす。


視界に広がったのは――静かな運河。

水面には街灯の光と、丸い月が揺らめいていた。


「……ここは、小樽……?」

呟いた悠真の横で、小さな呻き声が聞こえる。


「うぅ……」

振り向けば、そこにはルナの姿。淡い青のドレスの裾を濡らしながら、石畳の上で意識を取り戻していた。


「ルナ!」悠真は慌てて駆け寄り、肩を抱き起こした。

「大丈夫か!? 怪我は……」


「……はい。少しびっくりしただけ……」

ルナはゆっくりと目を開け、夜空を見上げた。

「わたしたち……生きてるんですね」


悠真はその顔を見つめ、胸の奥が熱くなるのを感じた。

ラファエルの圧倒的な闇を前に、すべてを失ったと思った。

だがこうして隣にルナがいる――それが奇跡のようで、言葉が出なかった。


「……運河、きれい……」

ルナがぽつりと呟く。

水面に映る月と街灯の光は、まるで二人を包み込むように揺らめいていた。


悠真は思わず、彼女の手を握っていた。

ルナが驚いて顔を上げる。


「……あっ、ご、ごめん!」

悠真は慌てて手を離そうとした。だがルナは小さく首を振る。


「……このままで……」

頬を赤く染めたまま、ルナは小さな声で言った。


胸の鼓動が早鐘のように打ち鳴らされる。

悠真は息を呑み、ルナの横顔を見つめるしかなかった。


――あの場所へ集合だ。


黒木の言葉が脳裏によみがえる。

核心へ戻らなければならない。だが今は、彼女を守ることが全てだった。


「ルナ……絶対に守るから」

「……はい」

二人はそっと寄り添い、月の光に照らされながら運河の静寂に身を委ねた。


やがてルナが微笑む。

「……なんだか、デートみたいですね」


悠真の顔が一気に真っ赤になった。

「なっ、なに言ってんだよ!」


ルナは恥ずかしそうに目を伏せ、しかしその笑顔は、運河の月よりも温かかった。

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