第26話 炎の誓い ― 第二十六話「ルナ姫との邂逅(かいこう)」
東京からヴィアンデン城があるルクセンブルクへ――
直接便はない。悠真たちは、パリ経由での乗り継ぎを経て、総飛行時間は17~20時間ほどとなる長旅を疲れ知らずで耐えて、ついにこの地に到着した。
窓の外に広がるルクセンブルク上空の青空を見る頃には、誰もが戦士から一人の旅行者に戻るようなひとときを味わっていた。
ルクセンブルクの青い空の下、悠真たちは石畳の街道を進んでいた。
ヴィアンデン城――山頂に聳えるその姿は、まるで中世の絵画から抜け出したように荘厳で、誰もが思わず息を呑む。
だが、あの城の地下には“闇の実験施設”がある。
そして、そこに至るには封印された魔法の扉を開かねばならない。
「……問題は、その扉を開く“魔法石”だな」
氷河が地図を睨みながら呟く。
黒木が補足する。
「ただの石じゃない。カロリング王朝の血を継ぐ者しか反応しない。千年以上続く血統の娘が必要だ」
その言葉に、場の空気が重くなった。
悠真が眉を寄せる。
「……そんな子、本当にまだ生き残ってるのか?」
そのときだった。
街外れの小さな広場で、数人の男たちが少女を取り囲んでいた。
薄いブルーのドレスを着た、栗色の髪の少女。大きな瞳を伏せ、震えている。
「……おい、やめろ!」悠真が駆け出した。
氷河と雷太も続き、瞬く間に男たちを撃退する。
男たちが逃げ去ると、少女は両手を胸に当て、小さな声で礼を述べた。
「……助けていただいて……ありがとう、ございます」
その声は澄んでいて、どこか儚げだった。
悠真は思わず見惚れ、胸が高鳴る。
「(なんだ……この感じ……)」
そこへ杖をついた老婆が現れ、雷太の背中をバシンと叩いた。
「おうおう、なかなかやるじゃねぇか! だがまだまだ半人前だなぁ!」
「いてぇ!? 誰だよアンタ!」
「この子の付き添いさ。“ルナ姫”を守るのがあたしの役目だよ」
老婆は豪快に笑い飛ばす。その迫力に雷太がたじろぐ。一方、莉奈はキラキラした目で少女を見つめた。
「ねえ、お名前は?」
少女は少し恥ずかしそうに答えた。
「……カロリング・ルナ、と申します」
「ルナちゃん、カワいいいい…!!」
その名を聞き、黒木の目が細められる。
「やはり……王家の血筋か」
ルナは真実を聞かされ、怯えたように首を振った。
「わ、私なんかに……そんな大役、務まるはずありません……」
悠真は一歩近づき、真剣な瞳で彼女を見つめた。
「君しかできないことなんだ。……俺たちに力を貸してほしい」
ルナの頬が赤く染まり、視線を逸らす。
「……わ、私なんかでよければ……」
莉奈はにやにやと笑って、二人の間に飛び込んだ。
「お兄ちゃん、顔まっかー! もう! これはもう恋人候補だね!」
「なっ……!」悠真とルナは同時に真っ赤になり、慌てて視線をそらす。
氷河は小さくため息をつき、雷太は「なんで悠真ばっかりィ!」と地面を転げ回った。
老婆はそんな光景を見て、豪快に笑った。
「こりゃ旅が賑やかになるねぇ!」
こうして――カロリング・ルナ姫と、その豪快な付き添いの婆さんが新たな仲間に加わった。
やがて一行は、荘厳なヴィアンデン城の前に立つ。
そこには未だ誰も開けたことのない魔法の扉が眠っていた。
そして、悠真たちの運命を大きく変える試練が待ち構えているのだった。
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