第25話 炎の誓い ― 第二十五話「新たなる旅立ち」

――すべてが終わったわけではなかった。


 ラファエル・シュナイダーは完全体の“超魔生物”へと至り、そして消えた。

 だがそれは決して終焉ではなく、新たな幕開けにすぎなかった。


 崩壊した施設の奥、鎖に繋がれ、冷たい床に倒れていた澪。

 その姿に誰よりも早く駆け寄ったのは隼人だった。


 「澪……!」

 膝をつき、震える手で頬に触れる。

 かすかに目を開いた澪は、弱々しいながらも微笑んだ。


 「……遅いじゃない、隼人」

 その一言に隼人の胸が熱くなる。

 堪えきれず、彼女の手を強く握りしめた。


 「もう二度と……お前を離さない」

 澪の瞳から涙がこぼれ、彼女は隼人の胸に顔を埋める。

 ――生きていた。彼女は、まだ生きていた。


 しかし、ラファエルの姿はすでに闇の中に消えていた。

 残されたのは不気味な沈黙と、わずかなデータの断片だけ。


 やがて、解析を終えた黒木龍一郎が低く言った。

 「奴の本拠地……ルクセンブルク。ヴィアンデン城の地下に“闇の実験施設”が存在する」


 その名を聞いた瞬間、悠真の心臓が激しく跳ねた。

 ――美咲の卒業旅行。あのとき彼女が訪れていたのは、ルクセンブルクの古城巡りだった。


 点と点が、線で繋がる。

 姉の死、ラファエルの陰謀、そして“核心”。

 悠真は唇を噛み、静かに頷いた。


 「……そうか。やっぱり……犯人はラファエル・シュナイダー……!」

 目の奥に燃える炎は、かつてないほどに強かった。

 「そこに行けば……姉さんの真実が、必ずある」


 その時、隣に座る莉奈が不安そうに彼を見上げていた。

 小さな手は震えていたが、瞳には揺るぎない意志が宿っている。


 「お兄ちゃん……私も行く。絶対に一緒に」


 悠真の胸に迷いがよぎった。

 彼女を危険に巻き込みたくはない。だが――彼女はもう、ただ守られるだけの妹ではなかった。


 「……分かった。だが約束しろ。どんな時も、絶対に生き延びるって」

 莉奈は力強く頷いた。

 「うん、約束する!」


 

 旅立ちの朝。

 傷ついた施設を後にし、仲間たちは新たな道へと歩み出す準備をしていた。


 氷河は無言で装備を整えていた。すると、袖をそっと引かれる。

 振り向けば、莉奈が心細げに立っている。


 「ねえ氷河くん、私……本当に役に立てるかな」

 氷河は一瞬言葉を探し、やがて顔を赤らめながら答えた。

 「……お前がいなきゃ、このチームはとっくに終わってた。自信持て」


 その言葉に莉奈は破顔し、氷河に飛びついた。

 「やっぱり氷河くん大好きっ!」

 「ばっ……離れろ! こんな時に何やってんだ!」

 赤面して狼狽える氷河。


 その様子を見た雷太は、近くの石壁に頭を打ち付けて泣き崩れる。

 「うわぁぁぁ! 俺の莉ナー! なんでそんなに氷河ばっかりィ!」

 彼の絶叫が響き渡り、場の緊張が少しだけ和らいだ。


 隼人と澪は人目を避けるように並んで立っていた。

 「危険な道になる。でも……俺は、もうお前を失わない」

 低く、揺るがぬ声。

 澪は柔らかく微笑み、彼の手を握った。

 「……だから私も、どこまでもついていく」


 二人の間には、戦場を越えた者だけが知る確かな絆が芽生えていた。


 

 悠真は最後に振り返った。

 雷太の豪快な笑顔。

 氷河の無口な背中。

 澪と隼人の確かな決意。

 そして、鋭い眼光を光らせる黒木龍一郎。


 そして何より――隣に立つ妹・莉奈の温もり。


 「――行こう、ルクセンブルクへ!」

 悠真は拳を握り、強く言い放った。

 「俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ!」


 仲間たちの声が重なった。

 その瞬間、バラバラだった心が一つになった。


 新生チームは、ラファエル・シュナイダーを追い、世界の深淵へと歩み出した。

 その先に待つのは――未だ見ぬ“闇の実験施設”。

 そして悠真が求め続けた、姉・美咲の真実だった。

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