第7話 東の街

「いらっしゃい!いらっしゃい!揚がったばかりの牡蛎だよ!肉厚でうまいよ!」

「帆立はどうだい!こっちも大きいよ!」

「いや、うちの牡蛎の方がうまいぞ!買った、買った!」

「牡蛎は当たるよ!奥さん!帆立が安心だよ!」

「牡蛎だ!」

「いや帆立だ!」

威勢のいい掛け声が響いている。争いなのか、戦争なのか、

「肉餅はいかが?焼きたてでおいしいわよ!」

「あ~ら。葱餅のほうが薄くてパリパリよ!お兄さん一枚どう?」

僕の目の前に大きな焼餅を差し出され、おののいていると、

「お兄さん、良い身体しているじゃないの。力をつけるなら肉餅よ!」

「ダメダメ!どこの肉か分からないわ!やっぱり葱餅にしときなさい!」

「肉餅よ!」

「いや葱餅よ!」

市場は盛況だ。初めて見る人の数に目を回していると、一人の少女が立ちはだかった

「さあさあ、そこの勇敢なる戦士のお兄さん!戦いの準備はできているかい?見たところ西の森から来たようだね!うちはいいナイフ、斧、小剣もあるよ!」

小剣があるのか。と立ち止まってしまったのがいけなかった。ぐいぐいと少女腕を掴まれ、店内に引き込まれた。

「さあさあ!いらっしゃい!旅の戦士!お求めは何かな?」

勢いにやられた。もう入るしかない。僕は慎重に、

「小剣はありますか?」

と問うと、

「小剣!それはお兄さんにピッタリのものがあるよ!これは西の丘にある伝説の刀鍛冶が!…」

少女は営業トークが止まらない。

「この小剣の刀身はヤスキ鋼でね!…。柄まで一体に!…。」

なんだかすごい小剣に思えてきたが、騙されてはいけない。とりあえず本当に良い物なのかも分からないので、

「ね、…値段は?」

と勇気を出して少女の話を遮ると、

「ざっと3万ダラズだね!今なら2万8千ダラズに負けとくよ!買いだね!」

高すぎる。覇猪何頭分だ?指で数えていると、いかつい若者たちが入ってきた。

「おう姉ちゃん、ここで一番いい斧をくれ。」

あいよ!と言って、少女がそっちに向かったので少しは安心した。それにしてもあんな少女まで商売をしているのか。いや親の手伝いじゃないだろうか。小柄な背丈、羽根の付いた帽子をかぶり、一丁前に前掛けをして客引きをしている。歳はどれくらいだろうか、僕より下だろうなと観察していると、

「あぁん?何だって!」

体格の良い男の一人が声を上げた。

「4万ダラズだって?こんなちっぽけな斧が?なめているのか?」

喧嘩腰に啖呵を切った男に、まずいと思った僕は、少女のそばに駆け付けた。だが少女は臆さず、

「未来の勇者ともあろうお方がケチっているのかい?いまなら3万8千ダラズだ。買いだね!」

この少女何も恐れていない。今までこういうことがいくつもあったなのだろうか。続けて、

「今なら胸当てと籠手もつけておくよ!合わせて5万ダラズだ!どうだい?」

いやそれはやりすぎ―。と思った瞬間、男が少女の胸座をつかんだ。それと同時に、僕はその男の手を掴んだ。

「何だい!兄ちゃん。正義の味方か?こんなぼったくりの店、しばいても構わないだろ!」

その意見にはおおむね賛成なのだが―。

「とにかく暴力は良くない。店番とはいえ、こんな子供に―。」

と言った矢先に少女が僕の顎に蹴りを入れた。

「誰が子供だって?あたしは16歳だよ!立派な店主だ!」

僕の頭がぐるりと回った。訳が分からない。庇おうとしたのに蹴りを入れられた。しかも、僕より年上?頭がクラクラしている。その時、

「なんだ、ずいぶんちんちくりんなガキだから、おてつだいかと思ったぜ!」

男たちが爆笑していると、少女は一人の男の顎を蹴り上げた。垂直に足を振り上げたすごいキックだった。男はそのキックを食らうと、ふらふらと床に突っ伏してしまった。僕は頭の理解が追い付かない。男たちもポカンとしていると、

「だれが子供だって?子供に倒されるなんて、この街じゃ生きていけないね!」

少女は啖呵を切った。すると一斉に男たちが襲い掛かってきた。

「なめんじゃねえ!」

すると、少女は僕の背中を掴み、男たちに押し付けた。僕を盾にする形で男たちと戦い始めた。男たちの拳が僕に突き刺さる。痛い。少女は構わず僕を盾に使っている。少女は男たちの股間―。金的を続けて三人にお見舞いした。男たちは、

「てめえ!卑怯だぞ!」

と声を上げるも、少女は、

「そんなやわな客はうちの店の客にふさわしくないね!帰った!帰った!」

と両手を腰に当てて言い放った。男たちは股間を押さえ、一人は床に突っ伏したままだ。僕は揉み合いに巻き込まれ、何発も顔に食らっていた。男たちが、

「覚えとけ!」

と捨て台詞を吐くと、倒れている男を抱えその場を去っていった。少女はフンと鼻を鳴らし、

「お兄さん、お求めは小剣だったね?」

と何事もなかったかのように話し始めた。僕を盾にしておいて、この少女すごい胆力だ。

すると店の奥から、老婆が声を潜めるように少女に声をかけた。

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