【十七話 アクマの森の仔〜黄昏〜④】

ウーサーとマーリンの運命的な邂逅の翌日。ウーサーは早速父王に呼ばれ、彼の執務室にいた。

そしていきなり、


「今日からエムリスと共にあの小動物の世話をするように」

「共に頑張りましょうぞっ、ウーサー様!」


マーリンの世話係に任命されてました。

何故こんな事になってしまったかと言えば、当然昨日の“マーリンウーサーの《黒オーラ》で気絶事件”が切っ掛けだろう。

その事件の詳細をエムリスから聞いた父王は面白そうだからということ、エムリスは人員確保の為、まだ十歳のしかも王族の子をあの『アクマの森』から連れてきた得体のしれない子供の世話を任せたのだ。

普通だったらそんな危険なことは任せては不味いことなのだが、悲しいかな命じた父王は普通の性格の持ち主じゃない。なにせ三歳のウーサーを暴れ川にポイしようとした鬼畜な男。

面白そうだったら例え我が息子でも年も関係なく理不尽に無茶振りを言い渡す腹黒王だ。でもあまりにもやり過ぎれば王妃に怒られるのでギリギリのラインで振ってくるのがタチが悪い。

しかし、ウーサーも負けてはいない。何の説明も無しにマーリンの世話係に任命されたのにも関わらず、


「はいっ!分かりました!ですが、その前にあの散らかってしまっている地下室の部屋をお掃除しますね!その後にマーリン君に一般的な生活とかを教えてと......」


ノリノリで即OKしやがった。しかも、育成プランも考えて。

それよりもコイツに一般的な生活諸々を教えられるのか?いや無理だろう、だってウーサーは普通の生活の中で悪霊を平気で素手で掴んで丸めて洗濯板で洗って干すのが普通なことだと今でも思っているんだぞ?

そんな思考回路を持つ奴が普通の常識など教えられるとは思えない!それどころか何かとんでもない、斜め上なことを教えそうでマジで怖い......。


あと、心無しかコイツ【アヴァロン】殺すと宣言した時よりも、やる気に満ちてないか?気のせいかなぁ?気のせいじゃないといいなぁ!?なんか色々心配になってきてしまった様子と伺っていた【ナマモノ】が後で、『白い夢』でウーサーに色々再確認せねばと決めたらしい......。


◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇


父王からマーリンの世話係に任命された次の日、早速ウーサーは行動に出た。


因みに今マーリンの身柄は地下室からウーサーがを起こした時に使っている白い塔に移されている。


そして、その朝ウーサーとエムリスは例の地下室で待ち合わせることになったのだが......、


「......ウーサー様、今日はまた随分変わった格好をしておりますな」

「変わった格好ではありません。これは昨日言いました、あの散らかった地下室を掃除すると戦う為の装備と戦闘服です!」

「掃除?装備??戦闘服、とな???」


エムリスが混乱してしまうのも無理はない。今、エムリスの前に立つウーサーの姿。

上から、頭に黒い三角巾を巻き、目にはゴーグルみたいなメガネと口には頭に巻いてる三角巾と同じ物で口を覆い巻いている。

両手両足には騎士達の誰かに借りたのか、厚手で丈夫そうな革製の手袋とブーツ。

まぁ、此処までは普通(?)だ。問題は服装だ。

いつものラフな服ではなく、侍女が来ている制服───一般的に言えばメイド服を着ていた。少し大きめの黒いフリルエプロンの大きなポケットには左にハタキ、右に謎の白い筒が入っていた。

そして背には自身の身長より長い箒(ちりとり付き)とモップを装着。忘れてはいけないバケツはちゃんと足元に置いてある。


.........なんかもう、色々ツッコミどころのある恰好なんだけど、私はもう突っ込まない。エムリスもツッコまない。


「.........(ウーサー様にこんな格好させたのは侍女長他数名の侍女じゃな。絶っっっ対に下心100%で着せたに違いないっ!!)」


エムリスの脳裏にあの変わった趣向の侍女長達のキャッキャッとはしゃぎながらウーサーにメイド服を着せる姿が浮かぶ。彼女達はとにかくまだ幼く可愛い盛りのウーサーに可愛い服を着せたがるのだ。しかも着せられる方のウーサーは特に嫌がりもせず、彼女達が用意した趣味丸出しの服に袖を通すもんだから、彼女達は更に増長し暴走しまくっている状況だ。

流石に、大事な訓練や行事などにはそんな格好はさせないが......。

今回も何処で聞きつけたのか、ウーサーが地下室を大掃除すると知り、新品のメイド服を若い執事に手紙付きで持って行かせて、自分達では地下室の掃除を手伝えないからと(女性の匂いもマーリンが嫌がるため)、せめて掃除にするのに相応しい服を用意したから使ってくれとメッセージを書いて着てくれるように誘導したに違いない。そして、その目論見は半分成功半分失敗という結果になったが......。


「あの地下室をマーリン君の部屋にするのは気が進みませんが、使用する以上は徹底的に綺麗にしなければなりません。なので今日は道具も服装もちゃんと掃除に適した物にしました!」


確かにゴミと埃とシミ諸々と戦うためには、合ってるっちゃ合ってる格好かもしれないが、何で動き難そうなフリフリのフリル満載のメイド服にしたんだ。地味なメイド服にしろよ!と思ったりもしたが、コーディネートしたのがあの侍女長達だから無駄だろうな......と思っエムリスはもう考えるのを止めた。


「そうですか。その格好になった意味はわかりました。しかし、掃除が終わった後のことも考えましたかな?終わった後、どうやってマーリン坊やを地下室に移すのですかのぅ?今はまだ気絶して大人しいですが、地下室に連れて行く途中、目を覚まし暴れてしもうたら今度こそ王に処刑されてしまうかもしれませぬぞ」


そう、エムリスが一番懸念しているのがマーリンが目覚めた時のことだ。あの時はウーサーの《黒いオーラ》(発動してません)でウン良く気絶してくれたが、ウーサーがそんなちょいちょい《黒いオーラ》を発動出来るわけではない。(なられても困るが)

もし、エムリスの言う通りの事になってしまえば、周りの者に特に近くにいるウーサーに危害が及ぶ可能性が高い。そうなってしまえば、問答無用でマーリンは処刑されてしまう。

対策がないわけではないが、念の為マーリンを拘束していたあの鎖と手枷を持っては行く。それでも間に合わない可能性がある。


「(さて......どうするかのぅ)」


険しい顔で考えるエムリスにウーサーがエプロンの右ポケットに入れていた謎の白い筒を手に取って、


「もしもマーリン君が起きてパニックになってしまったら、を使います」


白い筒の蓋をポンッと開けて、中の物をエムリスに見せた。


「は?これは??」

「これは皆さんも知っている“あれ”ですよ」


ウーサーが見せた物が全く予測できない物だったので、思わず口を大きく開けてポカンとしてしまったエムリス。だって筒の中に入っていたものが普通の人や幻想の住人でさえも知っている、何ならそこら辺の道端に沢山ある物だったから。

こんな物であの発狂したマーリンを止められるのか?否、止められるイメージが沸かない!のが普通なのだが、しかし、これを持ち出したのはウーサー。

どんなトラブルが起きようとも、常に誰もが予想できない斜め上のぶっ飛んだ方法で解決してしまう異端児。がからなのか、エムリスの懸念もウーサーの仕出かしそうな事への興味と好奇心で吹き飛んでしまったから、


「ほほぅ、ウーサー様はでどうやってマーリン坊やの気を静めるのですかな?」

「ふふ、それはですね───」


いたずらっ子のように楽しそうに笑って問うエムリスにウーサーは自信満々意気揚々に説明するのであった。

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