【五話 湖の貴婦人②】

「あの子」は何処?


私のたった一人の【息子】は何処?


私が愛した【息子


私を愛してくれた【息子


何処へ行ってしまったの?


何処に消えてしまったの?


貴方のいない『世界』なんて耐えられない……


……………いいえ、いいえ!


まだ「あの子」は此処私の世界にいる!


「あの子」の【色】は『世界』に沢山あるのだから……


◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇


私の名は【イグレイン】。

湖の乙女・湖の貴婦人などと呼ばれている【アヴァロン】に住む精霊だった。

「だった」というのは数百年前、【アヴァロン】が受け入れ癒やしたモノによって少しずつ狂い始めた楽園を元に戻そうとしたのだけれど、一番先に狂気に呑まれてしまった夫と娘達の手により追放されたの。

そしてその後、現し世を彷徨い、やっと辿り着いた小さな湖で【アヴァロン】と夫達から受けた傷を癒やしたわ……。

暫くして身体の傷は完全に癒えたけど心の傷は深く残ったままだった……。

愛していた夫と娘達から受けた痛みと恐怖と哀しみは私の心の奥底に根付いてしまっていた……。


そのまま数十年以上、湖の底に沈み毎日ただぼうっとして過ごしていたわ。

でもその日々の中で私は一つの楽しみを見つけたの。

それは湖の外にある【色】を視る事。

偶然だったのだけれど、ある日一人の人間が湖の魚を捕りに来た時に私は外の世界を視ていたの。

その時に人間の【色】を視てそれに興味が湧いた私はそのままずっと外の世界にある【色】を視るようになった。

そうそう、私の瞳はねこの世界で生き、在る者達の心を【色】で映し視る事が出来るのよ。


赤・蒼・黄色・緑・紫・橙色・金色・銀色・白・黒

濃い・薄い・淡い・鮮やか・明るい・暗い


どの【色】も濃さも明るさもどれ一つ同じものはない。

【アヴァロン】にはなかった色とりどりの美しい世界が其処にはあったの。

生まれて既に】を持っている私達幻想の住人とはとても大違い!


私は外の世界の【色】視るのが好きになり夢中になったわ!

特に好きだったのは子供の【色】!

子供の【色】は生まれたての時は無色透明なのだけど、時間が経つ程少しずつ色づき始めやがてキラキラと輝くの。

ただ、その中には時間が少し経ってしまうと色が濁って輝きが無くなってしまったり、最悪消えてしまう子供も多くいたわ……。でも同じくらい色も輝きもそのままの子供もいるのよ!

あとは稀にだけれど、【色】が更に美しく輝きが強くなる子もいたわね。


その次に好きなのはその子供の母親の【色】。

【色】が違うのは当たり前なのだけれど彼女達には一つ共通するものがあったの。それは彼女達の【色】には春の陽だまりのような暖かな優しい色合いだった事……。子供達の【色】を慈しみ、見守り育む【色】。

完成された精霊の【色】にはないものだったわ……。

言い訳ではないけれど、私は娘達をちゃんと愛していた。でも、私も娘達の【色】に母親や子供達のような変化は無かったの。

もし、もしも私も彼女達のような【色】を持っていたのなら、狂気に呑まれたとは言え娘達に罵詈雑言をぶつけられ、魔術の刃で嘲笑されながら攻撃される事もなかったのかもしれない……と後悔してしまう。


私はその後悔を見ないふりをして【アヴァロン】で受けた仕打ちのことを忘れたくて、毎日彼等の【色】を視るようになった……。

そしていつの間にかもっと近くで彼等の【色】を視る為に、人間や動物たちが多くいる安全な国の近くの湖に居を移し、其処に『湖の城』を造ってそこから子供達と母親達やその他の【色】を飽くなく視続けた。

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