2.
「いやー試合だったね」
「それな」
「めっちゃ動いたから、今日はご褒美でミスドのハニーチェロ買って帰ろ!」
「絶対太るからやめとけ」
「うっざ」
試合が終わり先ほどまで蜘蛛の巣のように張り巡らされていた緊張感は消え失せ、チームメイトの面々は更衣室でそれぞれのおしゃべりに興じていた。
更衣室内は汗と制汗剤の匂いが隅々にまで染み渡っていたが気にしている人はいない。
私は少しだけ、肺に満たされる空気を長く滞留させようとゆっくりと呼吸を繰り返していたけど。
と、よこしまな行動をとっていた矢先に私の視線は吸い寄せられるようにボディーシートで体を拭いている結衣を見つめた。
先ほどまで着用していた大会用のウェアは脱がれ黒いスポーツブラと黒いショーツだけが結衣の体を包んでいる。
結衣はボディーシートを四つ折りにして拭うように耳の後ろから首回りを拭いていき、躊躇うことなく左腕を後頭部に持ち上げ滑らかな白い腋がこちらに見えた。
その脇を自身の着替えを放り出して食い入るように見つめる。
脇には筋肉の窪みと白い肌によって辛うじて確認できる淡い斑点。
慣れた手付きで細い陶器のような指で挟んだボディーシートで脇をふき取る。
ゴクリと唾液を嚥下し、その白い腋と少し萎れたボディーシートを羨望の眼差しで見つめる。
結衣は同じように右側の脇も拭いていき、限界を感じたのだろうかボディーシートを取り出したところに今まで使用していたボディーシートを置き、新たなボディーシートを取り出して拭き始めた。
私はなんてもったいないことをしているんだ!と内心暴れまるように叫びあげる。
私にとって結衣が使用したボディーシートは聖遺物のようなもの。
神聖にして犯すべからずの貴重で二つとない大切な遺物。
そんなものを無造作に再利用せず捨てられるなんて神への冒涜に等しい行為。
萎れたボディーシートが輝き放っているオーラをなんとか退けて結衣に視線を戻す。
結衣は豊かな育ち盛りの胸の間にボディーシートを挟んだ指先を差し込み念入りに持ち上げたり、隙間をなぞったり、腰回りに密着しているスポーツブラのゴムの下を細やかに拭いていく。
時より白米のように白い肌が黒いスポーツブラからちらりと覗いて下腹部がきゅんと握られるような感覚がよぎった。
正直、結衣の体は見慣れている。
それも隅々まで。
だから別段真新しいことなんてなく、むしろ胸の下や腋の下よりももっと直接的な場所を見ているからここまで高揚する必要なんてない。
お風呂やお泊り会などで何度も体を洗い合ったりしたものだ。
結衣の体の変化をずっと見てきている。
でも、あの時と今とでは事情が変わった。
あの時は友達として、当然のもののように見慣れていた光景は今になっては現実離れした妄想のように自分の中で繰り返される。
これらすべては自分の感情を知ってしまったから。
そして知った直後に自分のこの感情が成就することなど絶対にないのだと言い聞かせた。
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