某トランスジェンダーかく語りき
Mai-kou
【第1話】「不愉快な」おかあさんごっことワンピース
物心つきはじめた4歳だか5歳くらいの頃、幼稚園の友達同士の中で「おかあさんごっこ」が流行っていた。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん、弟、というような家族のメンバーに扮して、家庭でのやりとりを再現する"おままごと遊び"だ。
(余談だけど、呼称が「家族ごっこ」じゃなくて「おかあさんごっこ」だったのにも時代を感じる。)
ある日友達グループの中でもボス的な存在だった子に「おかあさん役」を割り当てられたとき、私ははっきりと「嫌悪感」を覚えた。
(幼い子供ながらに友達同士の関係性において既にヒエラルキーが存在し、気が強い子がキャスティングの主導権を握っていた。その頃から既に陰キャだった私はいつも言われるがまま、だった。)
「え、おにいちゃんか、おとうとがいいのに・・・なんでおかあさんなの?」という戸惑い。性別という概念が分かってきたようなまだ分かってないような頃だったと思うから、"自分の在るべき性別"には尚更確信が持てなかった。
何より、気の強い"ボス"に歯向かうことなど到底できず、嫌々「おかあさん」を演じた。モヤモヤが消えず、終始楽しめなかったことをいまだになんとなく覚えている。
そして今思えばあのザワザワした気持ちが、おそらく生まれて初めて感じた"性別違和"だったように思う。
そこから程なくして小学校に上がり2年生か3年生のころ、当時通っていたピアノ教室の発表会があった。クラシックピアノということもあり子供にも最低限セミフォーマルな装いが求められていたので、私の親もよそ行きのワンピースを用意してくれた。フリルやリボンが付いていて、いわゆる世間一般的な"お嬢ちゃん"が着るような、品良く可愛らしいデザインだった。
が、そのとき私はこのワンピースのデザインに強烈な嫌悪感を覚えて断固拒否。嫌だ、着たくない、と泣き喚いて親を困らせた記憶がある。最終的にそのワンピースではなく、フリルのようなガーリーなあしらいの無いシンプルな服を着させてもらい、ようやく納得したことも覚えている。あれは確かパンツスタイルの服だったと思う。
あの時、"ワンピース"という形状が嫌だったのか、フリルのついたガーリーなデザインが嫌だったのか、までは覚えていないけど、ともかく"女の子善"としているデザインが気に入らなかった……を通り越して「生理的に受け付けなかった」のだと思う。
親はおそらくその頃から私の自我を尊重してくれていたようで、今になり当時の写真を見返すと、大部分は"ボーイッシュ"な格好で写っている(どこからどこまで私の意志で、はたまた親の趣味だったのか、とかは分からないけど)。
それにしても、自分の感情もその理由もまだ上手く言語化できない年齢だし、相当こだわりが強くてわがままな子供で親もさぞかし手を焼いただろうな、と思う。けど当時の私にとっては「理由はよく分からないけど、とにかくどうしても譲れないポイント」だったことには間違いない。
いまでも忘れられないのは、小4のときデパートの子供服売り場で、男児物のトップスとハーフパンツを買ってもらった時のこと。その服のデザインは色や柄や質感まで、20年経った今でも鮮明に覚えている。それくらい、"男の子の服"を着れることが嬉しくて仕方なかったんだろう。
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