第2話

私、中山凛なかやまりんは隣に住む同い年の幼馴染の男子、蔵元藍くらもとらんの事が大好きだ。


これはまだ私がこの街に引っ越してきたばかりの5歳の時、初めて藍に出会った。


私は引っ越してきたばかりの街を見たくてウズウズしていた。


だけど、引っ越し業者のおじさん達と一緒になって荷物を入れたり、指示していて忙しそうな両親に、とても街を見てみたいと言い出せなかった。


だから、私はこっそりと新しい家を出て探検に向かったのだ。


その時は単純にちょっとそこら辺に行くだけ、直ぐに帰って来られるなんて生半可な気持ちで出かけたけど、やっぱりというかなんというか私は迷ってしまった。


私は不安になり、泣きそうな顔をして見たことのない道を歩いていたけど、とても新しい家に辿り着けそうになかった。


私はいよいよ大粒の涙を流して大声をあげて泣こうとしていたら、


「君、どうしたの?」


そんな私に天使が声をかけてくれた。


男の子だと思うけど顔は女の子の様にも見えてとても綺麗な顔つきでクリクリフワフワの髪の毛、そのニッコリと笑いかけてくれる笑顔に私は自分が迷子になった事を忘れて見惚れていた。


「大丈夫?僕はこの近くに住んでいて名前はらんって言うんだ。」


私はそんな笑顔の天使のような藍に自分が道に迷っていることを伝えると、彼は、


「僕は、自分の家に帰られるからさ。とりあえず、僕の家に来ない?お母さんがいるから君のお母さんやお父さんに連絡ができると思うよ。」


そう言ってニッコリ笑う。

私はその笑顔に釣れられて頷くしかなかった。


私は藍と手を繋いで彼の家まで歩いている道中、彼からこの町内の事を色々教えてもらえた。


彼は私が泣きそうだった事を知っていたんだろう。


この家には猫がいっぱいいて飼い主さんが優しいので撫でさせてくれることや、あそこの駄菓子屋のおばあちゃんは顔は怖いけど実は優しいとかどこか通る度に色々教えてくれたのだ。


私は迷子になった不安を忘れて彼と仲良く手を繋いで藍の家に帰り着くと、藍が、


「あれ?お母さんが知らない女の人と話している。」


そう言って、藍は私と手を繋いまま、彼の家の前に行く。

私が藍の家の前を見ると、そこには私が会いたかった人がいたのだ。


「お母さん!」


藍のお母さんと話していたのは、私の母親だった。


「あれ?凛、もう藍くんとお友達になったの?」


私の母親は小首を傾げて私に尋ねる。


「私、一人で歩いていたら迷子になってしまったの。そしたら藍君が話かけてくれてここまで連れてきてくれたのよ。」


母親は今更ながらびっくりして、


「えぇ!?迷子になっていたの?ごめんね。引っ越しでバタバタしていたから気づかなかったわぁ。」


私の母親はどこかのんびりしたところがあるのだ。


「でも、お母さん。何で藍くんの家にいるの?」


私がそう聞くと、


「実はね。藍くんのお母さんの静香しずかと私は小学校と中学校の時、同じ学校に通っていたのよ。引っ越し作業していたら、偶然、静香が家の前を通ってね。家の前で話していたら、お父さんが「ここじゃなんだから別の所で話してきたら」なんて言ってくれたから、静香の家で話そうって事になってね。」


お母さん・・・、のんびり言っているけど、多分、お父さんは怒りを通り越して諦めているかもしれないよ。いや、お父さんものんびりしているから、本当にお母さんと藍くんのお母さんがゆっくり話せたら良いなと思って勧めたかもしれない。


まぁ、私と藍の出会いはこんな感じで始まった。


藍はいつも私が困った時に現れるヒーローなのだ。

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