第十話 突然の来訪者
振り返ると、そこに立っていたのは知らない女の子だった。髪はおさげで割と長く、目をつぶって懸命に訴える様子が、なんともかわいかった。
「こんにちは。よく眠りたいってことは、この委員会に興味があるってこと?」
女の子は少しもじもじしながら、つぶっていたまぶたを開いて答える。
「は、はい。えーっと、保健の先生に聞いたら、ここで活動してると言われたので、その、私も入りたいなーと思って…」
再びもじもじしながらうつむくと、長い黒髪をいじり始めた。
「もしかして、新入生?」
課題に飽き始めていた紬が、興味深そうに尋ねた。
「は、はい。そうですね…」
「私は三島紬って言いまーす。よろしくねー。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
すごく真面目そうだ。私の何倍も。
「あっ、私は白浜岬って言います。よ、よろしくお願いします。」
その後もめいめいに自己紹介を済ませて、私たちはその子に、現在の状況や活動内容について教えた。
「そうなんですね…。あの、それで、どうして夢日記を書いているんですか?」
「実は、私たちもまだ知らなくて…」
西垣先輩が少し困ったようにそう告げる。私もまだ分かっていない。質の良い睡眠と夢日記が、一体全体どのようにして交わるのか…。やっぱり、先生疲れてるんじゃないのかな…。
「とりあえず、夢日記の発表でもしません?」
紬が元気に提案すると、先輩たちは賛成し、私も賛成せざるを得なくなった。
「先輩方からどうぞ。」
「じゃあ、私から行くね。えーっと、私は昨日の昼に見た夢なんだけど、なんか、みんなの体に羽が生えてて、その、私は、生えてなかったのね。みんなが飛ぼうって言ってくれるんだけど、私は飛べないから困ってて、どうしようかなーって思った所で起きたの。」
だから、『私は飛べませんよ。』なんて言ってたのか。それにしても支離滅裂というか、何とも不思議な夢だ。昨日の出来事が脳裏をよぎり、私は思わず吹き出してしまった。
「どうしたの?雫ちゃん。」
「あ、いや、なんでもないです。」
慌てて取り繕うと、西垣先輩は少し不思議そうな顔をした。
「その、昨日、先輩方が気持ちよさそうに寝てたので、それを思い出してほっこりしたというか何というか…」
「あー、そういうことね…。私、何か言ってなかった?」
ぎくっ。
「な、何も言ってませんでしたよ。あはは…」
なんかばればれな気もするけど、まあいいや、これで。
安心したのか、西垣先輩は再び微笑を取り戻した。
「うーんとねー、私はねー、何だったかな~。」
相変わらずのんびりな口調で、なんとか思い出そうとしている川野先輩。
「うーん…あー、私も昨日のお昼に見たんだけど、えーっとねー、すっごく大きいベットが空から降ってきて、それでね、私、眠たかったから、そこにえいって寝ころんだの。」
そのときのことを思い出したのか、またもや顔がとろけそうになっている。かわいい。
「そしたらねー、すっごくふかふかで、気持ちよかったんだ~。なんか羊さんもいーっぱいいてね、その子たちに囲まれて、もふもふーって、なってたと思う。」
かわいい。何だろう、これ。っていうか、夢の内容がファンシーすぎる。さすがは川野先輩。
「ひ、羊も出てきたんですね。」
「ふふふ。そうなの~。」
何とものほほんとした空間に身を委ねていると、何やら、その穏やかさにはそぐわない音が聞こえてきた。ん?
「あ、スズメバチ。」
空気が、ざわめいた。
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