第四話 聞き間違い 

 不意に扉が開いて、聞き覚えのある声が降ってきた。

「失礼しまーす。あ、雫じゃん。やっぱりここにいたか。」

「なんでここにいるって分かった?」

「いや、休み時間に見てたじゃん。あのチラシ。」

「まあ、確かにそうだけど…」

突然の闖入者に、保健室の空気は揺らいでいる。

「二人とも、仲いいの?」

面倒見のいいお姉さん、じゃなかった西垣先輩の質問に、いち早く紬が反応する。

「はい。それはもう、大の仲良しなんですよ~。」

「いや、そうでもないですけどね…」

「照れるなよ~。」

「照れてないわ。余計なこと言うな。」

「だってほんとのことじゃん。そんなに怒んないでよ~。」

「ふふ。なんか、急ににぎやかになったね。」

西垣先輩が、さも楽しそうに微笑んでいる。まあ、この人が喜んでるならそんなに悪い気はしないけど…。

「っていうことで、私もこの委員会入ります。」

「もしかして、『睡眠の質向上委員会』に?」

先生が食いついている。そんなに嬉しいのかな。

「はい。もちろんです。雫が入るんなら当然です。」

「水無月さんも、入ってくれる?」

先生のきらきらした眼差しに、思わず目を背けることができない。

「まあはい、そうですね…。入ります。」

「やった~。ほんとにメンバーがいなくて困ってたから、助かる。ありがとね、二人とも。」

「いえいえ、なんのこれしきですよ。」

紬が得意げに笑う。

「じゃあ、メンバーもそろってきたことだし、そろそろ説明しようかな。」

先生の声が熱を帯びる。

「あっと、その前に、紬さんも来たことだし、もう一回自己紹介しとこうか。」

依然、先輩たちはじゃれ合っている。何というか、その、混ぜてほしい。

「改めて、養護教諭の瀬本茜です。よろしくね。」

やっぱりこの人綺麗だな~。

「私は三年の西垣楓です。んで、この子は同じく三年の川野皐月って言います。よろしく~。」

川野先輩が布団を抱いたまま手を振っている。かわいい。二人とも、なんかてえてえ。

「えー、私は二年の三島紬って言います。頑張ります。」

なんだか、妙に意気込んでいる。

「同じく二年の水無月雫です。よろしくお願いします。」

「よし。じゃあ改めてみんなよろしく~。ということで、この委員会が一体何なのか、説明するね。」

先生は、何やら一枚の紙を取り出した。よく見るとそれは、今月号の学校新聞だった。

「今月付の『糸高新聞』によると、学校全体の睡眠時間が低下しているの。それも、ここ最近で一番ね。アンケート結果を見たら、やっぱりスマホ使ってる時間が長いからそうなってるみたいなんだけど…」

そこで言葉をいったん切ると、先生は頭をかいた。

「保健委員会で注意喚起をしても中々改善されなくて…。それに、睡眠にだけ特化して活動するわけにもいかないから、なんとかならないかなーって一週間も考えて思いついたのが、この『睡眠の質向上委員会』だったの。」

結構考えたんですね。先生も大変だなー。

「そう。ずばり、あなたたちにやってほしいのは…」

委員(仮)全員が息をのむ。どっくん、どっくん…。

「夢日記を書くこと!」

カラスの鳴き声が、やけに間延びして聞こえた。

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