第16話 付与魔法師、魔渦域を潰す

「フィオル!?」


 ユノの驚きと戸惑いを含んだ声。

 普通にやったんじゃ間に合わないと思い、咄嗟の行動だったが……なんとか直撃を免れることが出来た。


 しかし、アイアンゴーレムの腕が僕の左足をかすめる。


「……っ!」


 耐え難い痛み。

 だけど、それでも──ユノだけは離してはいけないと思い、彼女を強く抱きしめながら、アイアンゴーレムと距離を取った。


「フィオル! ユノ!」


 すかさず追撃をかけようとするアイアンゴーレムに、ライラが攻撃を加える。

 大剣で一閃。アイアンゴーレムは悲鳴を上げて、地面に倒れた。


「大丈夫か!?」

「う、うん……」

「わたしも大丈夫」


 ライラの切羽詰まった言葉に、僕たち二人はそう答える。


「すぐに治癒魔法をかけます!」


 続けてセラフィナが抱きつくような形で転がっている僕たちに、治癒魔法をかける。

 左足に温かい感覚。

 徐々に痛みもなくなっていき、足の感覚も元通りになった。


「ユノ……君が無事でよかった。怪我はない?」

「う、うん、平気。それよりもフィオル……」


 ユノが申し訳なさそうな顔をして、僕の顔を見つめる。

 どうして、そんな顔をするんだろう? ──そう思ったのも束の間、ユノを強く抱きしめたままだったことに気が付く。


「ご、ごめん!」


 慌ててユノから手を離し、立ち上がる。


 緊急事態だったとはいえ、ユノみたいな可愛い女の子に抱きつくなんて……彼女は不快に思っていないだろうか。


 そう不安になり恐る恐るユノの顔に視線を下げると、彼女は頬を赤らめて、


「ち、違うんだ! 別に嫌だったわけじゃないから! ただ、急なことだったからビックリして……」


 と、ゆっくりと立ち上がった。


 嫌われてないかな……?


 ユノの表情だけを見てもいまいち分からなかったが、少なくとも怒っているわけじゃなさそうだ。


「二人とも……特にフィオル、無茶しやがって。お前はすげえ付与魔法師だが、身体能力自体は並なんだろ?」

「そ、そうだね」


 ライラは気を遣って『並』と言ったが、正直それ以下だ。魔物の攻撃を避けるのが得意なだけで、僕の身体能力はお粗末なもの。


「ですが、見てください。フィオルさんのおかげもあって、魔物が全滅しました」


 そう言って、セラフィナが辺りを見渡す。


 あれほど、空間を埋め尽くした魔物の群れが全滅している。

 残っているのは大量の魔物の死体だ。


「オレたち……魔渦域を潰したんだよな?」

「ええ」


 セラフィナが頷くと、ライラは嬉しそうに「やったぜ!」と指を鳴らした。


「オレたち、すごくねえか!? 魔渦域なんて、普通はギルド全体で取りかかる問題だぜ!? それを一パーティーで消滅……しかも、ほとんど無傷だなんてよ。まあ、フィオルだけは怪我をしたから、こう言うのもなんだけどよ」

「ですが、フィオルさんのおかげで、ユノさんが無事でした。フィオルさんが助けに入らなかったら、ユノさんが大怪我を負っていたかもしれませんから」

「まあ、僕の傷といっても、セラフィナの治癒魔法で全快するほどのものだったしね。無傷みたいなものさ」


 ライラとセラフィナに、僕はそう答える。


 遅れて、興奮が迫り上がってくる。

 僕たち……魔渦域を消滅させたんだ。


 しかも、ほとんど疲弊していない。

 自分たちがやった快挙に、本来なら両手を上げて喜びたいところだった。


 だけど、ここはまだ迷宮内である。


「ここで一度、戻るのも有りだと思うけど……どうする? 疲れていないなら、このまま先に進むというのも……」

「ああ、進もうぜ。今のこの勢いを持続していたい! 仕切り直しっていうのは性に合わねえ!」


 ライラが右拳で左の掌を叩いて、そう言う。


「ユノはどう思うかな?」

「……えっ! あっ、うん! いいと思う! また日をあらためたら、また31階層からここまで来ないといけないしね!」


 さっきからぼーっとしていたユノに話を振ると、彼女もノリ気のようだった。


 ──魔渦域が発生してどうなることかと思ったけど、大きなトラブルもなく切り抜けることが出来た。


 問題は、ユノを助けてから、彼女の口数が妙に少ないことだけど……なんでだろう?

 やっぱり、嫌われた?


 恥ずかしそうにもじもじするユノを見て、僕は首を傾げるのであった。

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