毒氷の蛇姫
リリルがカードを掲げると共に冷気がカードへと吸い込まれるように渦を巻いて集まっていき、氷結の舞台の下リリルは言の葉を並べその名を呼ぶ。
「鎮座する毒姫の囁きは死へ手招き、永久の快楽へ沈みその命を捧げよ……妖しく踊れ、妖毒姫マリア……!」
冷気が消えて行くと共に青き鱗持つ長き尻尾がとぐろを巻くように現れ始め、五つの首を持つ魔物ヒドラのマリアが姿を現す。と、次の瞬間に中心の頭が顎が外すように大きく口を開き、その中から紫の体液を溜らせながら女性の上半身が現れ巻き付くように他の首が絡まると二本の頭は腕となり、残りの二本は背中から生えたような状態へと変貌する。
そして青き髪で片目を隠す女性の目が開き、それが真化したアセスであるマリアと悟りエルクリッドは戦慄しながらも怖気づく事なく一歩前と踏み出す。
「真化したアセス……! ヒレイ、いけるよね」
「倒さねば先がないならば倒すまでだ、そうだろう……!」
枷を外した事で真化という本来の姿となり力を増したマリアを前にヒレイは退く事なく翼を広げ臨戦態勢となり、マリアもまたくすっと妖しく微笑むと蛇腕で口元を隠す。
「このマリアと戦う者が現れるとは……リリル、遠慮などしなくて構わないわね?」
「構わぬ、この
では、とリリルに答えたマリアは次の瞬間に背中の蛇頭が口を開き同時に紫の液体を発射し、ヒレイはすぐにその場から飛んで避けて液体が付着した場所が煙を上げたのを捉え溶解性の猛毒なのを察する。
刹那にマリアはすぐに第二射、第三射と毒をヒレイに向けて放ち、それを避け続けるものの絶え間ない攻撃に押されていく。
「スペル発動フレアフォース! 押し切るよヒレイ!」
「あぁ!」
毒液を避け続けながら炎を口内へとヒレイは溜め込み、エルクリッドのスペル効果を受けたと同時に青き炎を放射し毒液を蒸発させながらマリアを狙う。瞬間、マリアが尾を使って海に浮かぶ氷の塊を放り投げて盾代わりとし、炎に溶かされた氷が水蒸気となり視界を奪う。
その視界が奪われた瞬間にマリアが素早く動き始め、察したエルクリッドがカードを引き抜いた時にはヒレイの足めがけてマリアが左腕の蛇を伸ばし牙を剥いており、噛まれる寸前で更に飛んで回避に成功、したかに見えたが口が開き紫の毒液が顔面に直撃し右目から毒に侵されてしまった。
「ヒレイ! っ……あたしの目も……」
ふっと右目の視力がなくなったのをエルクリッドは察しつつも冷静にカードを引き抜く。が、バシッと弾かれるようにカードが落ち、そして落ちたカードが消滅してしまう。
それがリリルのスペル・バニシングカードによるものと察しつつも、闘志折れる事のないエルクリッドはヒレイと心を重ね、ヒレイも応えるようにマリアめがけて炎を吐きつける。
すかさずマリアは尻尾で海面を叩きつけて闘技場を揺らし、さらに起こる波を薙ぎ払って直接炎を被せて水蒸気爆発を巻き起こす。その際の蒸気が全てを覆い隠すものの、ヒレイは迫るマリアの二本の蛇頭を避けつつ続けざまに放たれた毒液も躱していく。
だがその間にも目から入った毒が広がり右目周辺が赤紫色にじわじわと染まっていき、身体の痺れや視界のぼやけなども起こり飛行する事も衰えふらついてしまう。
(流石に長くはもたないな……エルク)
(危険すぎるけど、いいの? やるしかないんだけどさ)
(相手は真化したアセス、このまま引き下がればこれから先の強者にも勝てはしないからな……!)
だよね、と返しながらエルクリッドがカードを引き抜き笑みを浮かべその目に光を灯す。真化したアセスは確かに強い、だがアセスである事に変わりはなく、これから先待ち受ける者達もまた真化したアセスを繰り出してくるのならば今ここで乗り越えてこそとヒレイも毒に侵された身体から熱を放ち、氷結の海の冷気を完全に溶かし切り強引に破壊する。
カードへ戻った氷結の海の絵が色彩を失い手の中で砂のように崩れ去るのをリリルは見届け、同時に相性もあるとはいえただ闘志を高めただけでホームカードを破ったヒレイの実力と、その思いの強さとを感じながらカードを抜く。
「マリアの毒を受けて折れぬ闘志に敬意を表し、妾も真正面から受けてやろうではないか」
「明らかに誘ってますよね、それ」
「さて、どうかの? どちらにせよお主らに時間はないぞ?」
クスクスと不敵に微笑むリリルの言葉通り時間をかける程にヒレイの身体は毒に蝕まれ、その影響はエルクリッドにも現れ呼吸も荒くなり全身の感覚も鈍くなっていく。
あからさまな罠を前にエルクリッドは笑みを浮かべ、勢いよくカードを引き抜くと共にヒレイもまた全身に力を込めながらぐぐっと仰け反り口内に青い炎を蓄え攻撃態勢へ移る。
それに対し蒸気が晴れる中で凛とマリアはとぐろを巻きながら身構え、リリルもまたカードに口づけしつつ魔力と共にその詠唱を口ずさみ始めた。
「悠久の時、蠱毒に塗れ惨禍に沈む者共よ、一時の悦楽を得て生者犯す坩堝を成せ……! スペル発動、妖毒の水華……!」
「スペルブレイク、ドラゴンハートッ!」
マリアを中心に紫の六枚の花弁が開き、彼女が四つの蛇頭から毒液を放つと共に花弁もまた髑髏を象る毒の渦となりヒレイへと放たれる。対するヒレイもドラゴンハートの効果で力をさらに高め、青から白へと変わった炎を巨大な火炎弾として吐き出しぶつけに行く。
毒の渦が火炎弾を押し止めその合間を縫うようにマリアの毒液がヒレイの身体へと命中し、煙を上げながら身体を溶かし体内へ侵入し赤き鱗をどす黒く染め上げ、その影響でエルクリッドもまた激しい動悸と身体の感覚が消えて音と視界が消え、目から光がなくなった。
だが、それでもエルクリッドは倒れる事なくカードを引き抜く動作を見せ、それにはリリルも目を見開きながら火炎弾が妖毒の水華の渦を押し返しながらマリアへ迫っていくのを感じ取る。
(まだ折れない……だと!?)
「スペル発動オーバーブレイクッ!」
意識などないはずのエルクリッドがさらなるカードを切り、それと共に目に光りを灯したヒレイがさらなる火炎弾を吐き出し上乗せしより大きな炎とする。その瞬間に妖毒の水華は一気に気化して消滅し、マリアも全身を丸め防御態勢を取るも間に合わないと察し白きの炎に包まれ大炎上と爆発が巻き起こった。
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