妖魔リリルの舞ーDemonー
優雅なるリリル
愛を知って愛に生き、愛に殺され愛に裏切られた。
愛を憎み愛に飢え、愛に死に行く者を愛で抱き締めた。
愛を理由に殺戮し、愛に試練を与え愛を確かめる。
愛を手にして愛を望み、愛が届かずとも愛すると決めた。
心受けて愛となす、妖艶なる魔を持つ者は常にその想いを見守り続ける。
ーー
赤い液体が満ちる絢爛豪華な浴槽に一糸纏わぬ姿のリリルが膝を抱えて丸くなるように目を閉じて沈み、やがて目を開いてゆっくりしなやかに身体を立たせ浴槽から出て水を滴らせながら更衣室へ。
使用人達がすぐに身体を丁寧かつ優しく拭き取り、リリル自身も濡烏に青と紫が混じる長い髪を湯衣で纏め薄手の浴衣に肢体を通す。
化粧のない素顔でも整った顔つきの彼女には見慣れた使用人達も息を呑みながら見惚れ、その中でただ一人使用人の長たるミヤトだけは見惚れずにリリルの前でスカートの裾を持って一礼し、キアズミ周辺にいるリスナー達の情報を報告する。
「現在キアズミの街、並びに周辺地域にいるリスナーの人数は一万五千三百六人、その内、十二星召と相対する資格を獲得しているのは現時点で三名……エルクリッド・アリスター様、シェダ・レンベルト様、リオ・フィレーネ様、うち、シェダ様はウラナを獲得した模様です。また、これから資格を有するであろうリスナーの候補者の数は五百名となります」
「ウラナを退けたのみならず獲得までするとは……あの男子もやるではないか」
ふっと笑いながらかつてシェダと戦ったときの事をリリルは振り返り、実力差があっても仲間の為に心折れずに戦った彼の思いの強さに負けを認めた。本来ならば巻き返しもできたが敗北を受け入れられたのは、かつて自分を変えた者と姿が重なったから。
そんな若者がさらなる成長を経て神獣に認められるに至り、再び挑む所に来た事は感慨深いものがある。もっとも、規約としては資格を得てさえしてれば誰に挑むかは自由であり、神獣と戦ったならば相応の消耗もしていると思うとすぐに来るとは限らない。
ミヤトを伴いながらリリルは更衣室を出て廊下を進み、やがて浴衣を脱ぎ捨て髪の湯衣を解くと背中や胸元を大きく開き、しなやかな肢体を晒す普段着へと変わり指で目元と唇をなぞって化粧も済ませる。
早業たるその後ろでミヤトが手際良く脱ぎ捨てられた浴衣や浴衣を受け止め、リリルが後ろへ手をやると素早く手鏡を渡し何処からともなく取り出した青い衣を彼女の肩へと羽織らせ着替えを完了させた。
「ミヤト、朝食は精がつくものを頼む。今日は久々に全力で戦うからな……」
「ではそのように……食前酒はいつものシャンパンでよろしいですか?」
「それで頼む。あとは、今日はお前も共に食事をしろミヤト」
手鏡で髪や化粧を確認しながら歩いて会話するリリルがミヤトが返事をせずに足を止めた事に気がつき振り返り、すぐにミヤトは気を取り直し浴衣を畳みながら歩き出してリリルの前に膝をつく。
「このミヤトを、使うということですね?」
あぁ、と答えながらリリルがミヤトへ手を伸ばし、それを見上げ指先に舌を使いミヤトが丁寧に掃除をするように舐めて頬を寄せる。
「マリアの枷も解いて全力で挑むつもりだ。妾もリスナーとして、才覚ある者達に力を示さねばならんからの……お前という存在がいなければ、妾の全力とは言えん」
「では、食事は二人分を用意するよう手配致します。このミヤト、リリル様の願いを叶えるべく全てを尽くしましょう……!」
リリルの手を取り甲へ口づけしたミヤトの背中より真紅の膜を持つ翼が一瞬広がり、その思いの強さを感じたリリルもまた妖しく微笑みながら頼むぞと述べ手を引き再び二人は共に廊下を進み行く。
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