不朽不滅の生命
本物の核を見抜かれ潰された事にニアリットは目を大きくしながらも崩れ去るガイアスをカードへと戻し、直後に全身を貫く衝撃を受け血を吐く。
(本物を見抜く為に核を一つ潰し、その波長を確認したか……)
不定形の物体をゴーレムとする際に核を使うが、それはいわば心臓そのもの。偽物を使う事で誤魔化したりもできるが、それらが持つ魔力の波長までは同じとはならない。
人工生命体ゴーレムの限界とでも言うべきもの、かつてゴーレムを作り出したというネビュラがその技術に早々に見切りをつけた理由を悟りつつニアリットは息を調え、口元の血を手で払う。
「エルクリッド・アリスター、以前よりもアセスの力も判断力も格段に上がっているようで何よりだ。そしてシェダ・レンベルト、あのリリルと戦い制したこと、カラードのしごきを受けていたことは話に聞いてはいたが予想以上だな」
「ありがとうございます」
二人の力を称賛しつつその礼を受け取りながらニアリットは次なるアセスのカードを引き抜く。一度そのカードに目をやってからまっすぐ見つめる二人の方に向き、若き才覚の実力を感じ入り肩に力を入れた。
「だがこのニアリット、十二星召の一角である以上むざむざ負けるつもりはない。見せてやろう、我が最高のゴーレムを……!」
魔力の滾りが風を呼び砂を巻き上げ地を揺らす。十二星召の一角であるニアリットが繰り出さんとするアセスの力強さ、そのゴーレムの恐るべき力が召喚前であっても伝わりエルクリッド達に戦慄が走る。
「不朽不滅の生命よ、大地より天へ手を伸ばし地を睥睨せよ! これが我が最高の傑作、ヘラクレス!」
ニアリットの背後の砂が盛り上がって徐々に人の形を作っていき、さらに周囲の岩塊を巻き込みながら巨大化していく。エルクリッド達が見上げる先に姿を現したのは、岩塊の鎧を纏う砂の身体持つ単眼の巨人ヘラクレスの姿だ。
先程のガイアスと異なり目でしっかりとエルクリッド達を捉えて瞳孔が動き、ニアリットもカードを引き抜き臨戦態勢へ。
「本来は対神獣用のゴーレムではあるが……今のお主らを試すならばこいつでなければ努まらないと判断した。ヘラクレスよ、その力を存分に見せつけてやるのだ!」
「りょう、かい!」
二人の実力を認めつつニアリットがヘラクレスへ力強く指示を与え、それに片言気味に答えたヘラクレスが太い両腕を砂へ突っ込み、次の瞬間に引き抜くのは砂と岩塊で構成された巨大なる斧である。
刹那にそれを振り下ろし、巨大な身体に見合わぬ速さにヒレイは反応が遅れかけるも何とか避け、砂を巻き上げながら大地を割りその衝撃が闘技場の外へと伝わる威力にはエルクリッド達も背筋が凍りつく。
「対神獣用のゴーレム……相手にとって不足なし! ヒレイ!」
「あぁ、任せろ!」
闘志燃えるエルクリッドに応えるようにヒレイは空を飛び、ヘラクレスが構え直す前に一気に接近する。と、次の瞬間にヘラクレスの単眼がヒレイをしっかり見据えてるのを悟り、刹那、目から放たれる一条の光がヒレイの翼を貫く。
(凝縮した魔力の光線か……!)
咄嗟に回避行動をとったことで翼膜を破られただけで済んだものの、その攻撃の速さにはヒレイは戦慄し刹那に振りあげられる斧の一閃を紙一重で躱す。
その間に低空でヘラクレスへとメリオダスが迫りながらその身体を透視し核を探す。が、それらしいものがないのをシェダと共有し、その事実に目を見開きつつもシェダはすぐにカードを切る。
「スペル発動エスケープ! メリオダス、ありがとな」
「わざわざエスケープ使うほどだったの?」
「あのヘラクレスには核がねぇ。なのに身体は砂とそれを巻き込んだ岩ときてる……簡単には倒せそうにない、な」
危険を回避する為に確実に安全にカードへ戻せるエスケープを切ったシェダの判断に納得しつつ、彼がもたらした情報からエルクリッドはヘラクレスというゴーレムの分析を進めていく。
核がなく、それでいて流動体で身体を構築している。加えてニアリットへ返答をしたということは、通常のゴーレムより思考があるということだ。
(成長したアセス、ってことだよね。ゴーレムをそこまで使いこなしてるなんて……)
ゴーレムを扱うリスナーは多くはないが、所有するものはその能力や特性を有効的に利用する。あのバエルのアセスにも溶岩で構成されるゴーレムがいるが、ヘラクレスほどの明確な意思を持つには至ってはいない。
核がなくとも砂と岩の体を維持できる程に確固たるものを持つヘラクレスを相手に汗が流れるが、その事がエルクリッドとシェダの闘志をさらに燃やす。
「魔槍の使い手よ、その疾き技で勝利を貫け! いくぜディオン!」
シェダが召喚する次のアセスは魔人ディオン。召喚されて早々に指示を待たずに姿を消し、一瞬でヘラクレスの身体を駆け上がりその単眼目掛け魔槍を鋭く突き出した。
目にも止まらぬ早技で勝負は決まったかと思えたが、手応えのなさをディオンは感じ素早く離れるようとするも足を砂で捉えられてしまい、頭を引っ込めて回避したヘラクレスの眼差しが向けられてしまう。
「ヒレイ、お願い!」
ヘラクレスの単眼から一条の光が放たれた瞬間、ヒレイの体当たりで顔の向きが逸れたことでディオンは光線の直撃を避け、素早く足を引き抜くと共にヒレイに向けられ迫る砂の矢の数々に対し技を繰り出す。
「
力強い突きと共に螺旋を描く黒き雷が矢を全て破砕し、刹那にヒレイに飛び乗っディオンは共にヘラクレスから離れエルクリッドとシェダの前へと降り立つ。
明らかにこれまでのゴーレムとは質が異なり、ニアリットが最高傑作と称するだけはあるのを再確認する。
「あれを倒すには単に力を重ねるだけではいかないな。この戦いの中で、我々が先に進まねばならない」
魔槍を構え直しながらディオンが沈着冷静に口にする言葉にヒレイが静かに頷く。先に進む、つまりは戦いの中で限界を越えねば勝てない。
体当たりを受けても身体そのものを崩し再構成することでヘラクレスは無傷という有様、加えてヒレイが触れて感じた違和感がエルクリッドへ、彼女の言葉を通しシェダへも伝わる。
「あのゴーレムは砂と岩だけじゃないかも。それも解かないといけないっぽい」
「やるだけやるしかねぇな、まだまだ先があるんならここで苦戦はしてられねぇしよ……!」
「だよね、あたしら負けられないよね……!」
闘志が更に高まっていく。立ちはだかる困難に折れぬ心を持つこと、強敵へ挑むこと、その繰り返しの果てにあるものを掴む為に。
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