星彩の儀ーChallengerー

再会

 地の国ナームと水の国アンディーナの国境の街セイド。半年前に神獣エトラの進路上にあったことで被害を受けた街はすっかり元の賑やかな姿となり、その外れにある小さな魔法屋もまたひっそりと佇む。

 決して客足は多くはない、しかし落ち着いた雰囲気と香草の心地良い香りがするその店にて商品を並べ、掃除をしていくのはエルクリッドだ。


「よし、準備終わり!」


 朝の光受ける赤い髪が煌めき、快活な声が店内によく通る。とはいえ静寂が返るだけでその明るさは空回り気味にも見え、そんな彼女の所へ微笑みながら店主であるタラゼドがやって来て顔を合わせた。


「ありがとうございますエルクリッドさん。とはいえ、わたくしといて退屈ではありませんか?」


「そんな事ないですよ。タラゼドさんのご飯美味しいし、あたしも、ちょっと考えたい事とかありましたし」


 笑みで答えながらエルクリッドが脳裏に浮かべるのは、今から半年前の出来事だ。


 自分の出生に関わる秘密を知ったエレメ島での戦いを終え、その後火の国サラマンカのフレイの街にて休息を取った後は再び旅に出た。

 それから少しして一度故郷へ里帰りするとしてシェダが別れ、ノヴァも彼女の実家のあるレスイハへ送ってしばらく修行に付き合っていたが、タラゼドが自分の店へと戻る際に付き添いそのまま手伝いとして働いている。


 とはいえ元々タラゼドの店は閑古鳥が鳴いてばかりの店であり、一日に客が一人いれば多い方という有様で退屈極まりない。

 だがその穏やかな時間の中で、エルクリッドは戦いから離れながら自分の出生の事などを整理し、その中で改めて強くなりたいと思っている事を再確認していた。そして、自分の中にあった火の夢エルドリックの力は完全に消え去っている事も。


「あんなに嫌だったのに、使いこなせるようにって思ってたのに……なくなるとなんか変な気分です」


 自分の手を見つめ握りながらエルクリッドは深く息を吐いて気持ちを整え、見守るタラゼドにニコッと微笑むも上手くできてないのを彼の表情から悟り、無理しなくていいですよと優しく声をかけられる。


「前にお話したように、エルクリッドさんはネビュラが作ったアスタルテに取り込まれた際に、エルフとしての要素をほとんど喪失したのだと思います。残ったものもありますが、少なくともカードを創り出す力は消えたのは間違いないかと」


 うん、と静かに語ったタラゼドに答えながら、エルクリッドは腰につけているカード入れから魔獣ローレライのカードを引き抜く。

 エルフの力が由来となり現れたローレライは消えずにアセスとして存在し続け、心の中で擦り寄ってくる感覚にエルクリッドは微笑む。


「あたし、頑張らないといけませんね。今度こそバエルの奴に勝てるように……」


「エルクリッドさんなら、いつか必ずバエルに勝てます。お世辞などではなく、わたくしはあなたの素晴らしい才能とその強い心を信じていますから」


 高き場所に立つ者への挑戦を目指すエルクリッドへ背中を押すタラゼドの言葉と笑みは眩く、それが心強くもその優しさに惹かれかけ慌てて背を向けてエルクリッドは頬を何度も叩いて深呼吸を繰り返す。


(タラゼドさん……たまにあたしを困らせる事言うんだよね……悪い気はしない、けど)


 ドキドキする胸の高鳴りが何かは理解しながらも、そうではないと思い新調した服の乱れを直す。その様子にきょとんとタラゼドはしつつも、店の外に感じた魔力の波長を捉えて目を向け、エルクリッドもそれを感じ気を取り直し来訪者を招き入れる。


「おはよーノヴァ……と、シェダもいたんだ」


「おはようございますエルクさん!」


「おっす。久しぶりだな」


 扉を開けるなりすぐに飛びついてくるノヴァを受け止めながら頭を撫で、そのやり取りを微笑ましく見ながらシェダも変わらない様子に互いに笑みを交わし合う。

 と、さらにそこへ近づく足音を感じてエルクリッド達が目を向け、その先にいた水の国の騎士リオが来たのに目を丸くしつつ、微笑みながらやや早足で駆け寄る彼女を迎え入れる。


「リオさん!」


「エルクリッド、シェダ、ノヴァもお久しぶりです。タラゼド殿の所にいると聞いて来たのですが、こうして皆と再び会えるとは」


 リオは王国騎士としての任務を終えて一足先に水の国へ帰還した事もあり、旅の仲間が一同に会いするのは久しい。

 喜びも程々にリオがちらりと店内へ目を向け、穏やかに微笑むタラゼドがいるのを確認したのを見てエルクリッド達は彼女が何かの理由で来た事を察し、共に店の中へと入っていく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る