星彩の召喚札師Ⅸ

くいんもわ

星に祈りを

煌めく星

 数多の星が煌めく。


 星は輝き空を描く。


 瞬く星。


 流れる星。


 消える星。


 生まれる星。


 煌めく星彩を見て何を思う? 何を願いますか?



ーー


 星の海広がる夜の空は美しく、眩ゆく輝く月もまた合わさってより色彩を際立たせるかのよう。


 その日のエタリラの夜空はいつにも増して星が煌めくのを誰もが見て気づく。同じ空の下に生きる生命達が何かを感じるように、大いなる何かを予感するように。

 しかしそれが邪悪なものや、動乱の予感ではないのも間違いなかった。新しい何かが始まる、それを起こそうと画策する者もまた自宅の庭から星空を見上げ、そして静かにやってくる者へ目を向けフッと笑う。


「表から素直に入ってくれば良いものを……バエルよ」


「こんな夜更けに奥方様らを起こすわけにもいきませんよデミトリア様」


 風の国シルファス北部の街レイヴンにある屋敷の主たるデミトリアは、夜影から姿を見せる仮面で目元を隠すバエルと顔を合わせ、彼が隣に来ると再び星空を見上げバエルも同じ空へと目を向けた。


「今宵の星はよく輝く……そうは思わぬか?」


 えぇ、と静かにバエルは返しながら、少し息を吸ってからデミトリアが進めるある話に触れる。


「五曜のリスナーの再選定を、するそうですね」


「先日四大国の王達との話し合いも終えた。またリスナーのみならず魔法使い等も要職に選ばれる機会とし、エタリラ全土を舞台とした選定会を催す」


 かつてデミトリアが選び抜き作り出した五曜のリスナーという制度は、熒惑けいこくのリスナーたるバエル一人を除き様々な理由で鬼籍となり空位のままであった。

 十五年という歳月を経て今再びその席につく者を選ぶこと、それに併せ様々な力持つ者を探し出す試みにバエルは何か言いかけるも口を閉ざし、察したデミトリアがすかさず言ってみろと促す。


「儂の前でも仮面を取らぬならば胸のうちくらい明かしてみろ。お前との付き合いも長いからな」


 では、とバエルはデミトリアの方へと身体を向け、厳つい顔つきと鋭い目を向けられるのにたじろぐ事なく堂々と思いを打ち明ける。


「何故、今なのですか?」


「それを聞くのか? まぁ良い……話してやろう」


 フッと笑いながらデミトリアは腕を組み、再び煌めく星空に目を向けながら何かを思い浮かべ今この時に再選定をする理由を話していく。


「十五年前の火の夢の事件、ひいてはそれ以前からネビュラ・メサイアが引き起こした数多の事件が終焉を迎え、それに伴い多くの者達の中で何かが終わりを迎えた。無論、貴様もだバエル」


 稀代の錬金術師にして脅威の存在だったネビュラが起こした様々な件は、彼自身の死とそれに立ち向かった者達の活躍で終わりを迎えた。それはデミトリアが指摘するようにバエル自身も当事者の一人として感じ、向けられた視線から一瞬目をそらすも、すぐに向き合い続きの言葉に耳を傾ける。


「今この時に神獣達が活動期に入り、だが何かを待つようにしていると報告が来ている。何かが終わり、そして新たな始まりへと繋げる良い機会と儂は考えた……お前とて、熒惑けいこくのリスナーの名については考えているのだろう?」


「俺が熒惑けいこくのリスナーの名を持ち続けるのは、俺を負かすだけのリスナーがデミトリア様を含め僅かしかいないから……たとえ形骸化したものであろうと、戦星の名を持つ者としての責務を放棄するわけにはいかない、それだけです」


 一人だけになった五曜のリスナーが形骸化している事はバエル自身もよくわかっている。それでも責務を放棄はできない大きなものというのも理解し、そして、だからこそ思うものが今ある。


「……一人のリスナーに、俺は出会った。最初は弱く、未熟で力もない、ただのか弱い存在だった……」


「エルクリッド・アリスターか……報告は聞いている。火の夢の欠片から生まれた存在だったらしいな」


 バエルは星空に目を向けながら出会った存在を思い返す。エルクリッド・アリスター、敵わぬ相手に挑みかかり、自分と異なる強さを求め続け何度も出会い、戦い、時には共闘する中で成長していく存在を見てきた。


 そして彼女に対して特別な思いを懐いてるのをバエル自身感じながら、仮面の下の目を閉じデミトリアへ言葉を返す。


「あいつならば、必ず俺を倒せる。その日が来るのを、今の俺は待ち望んでいる……その時に、俺が求めている答えもわかるのかもしれません」


 バエルがデミトリアにそう語る頃、遠く離れた地にて野宿するエルクリッドは同じように星空を見つめていた。


 いつになく煌めく星の輝きの中に流れる星を見つけると、エルクリッドはすぐに手を胸に目を閉じ祈りを捧げる。


 強くなりたいと、それは先に待つ存在と相対する為に、さらにその先の答えに辿り着く為に。


 星彩の下でリスナーは誓う、変わらぬ思いと望みを懐いて。

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