第4話 メイドさんが体を洗ってくれる

//SE(ドアを開ける音)

//SE(土砂降りの雨が降る音)



「お帰りなさいませ、ご主人様……って、どうされたのですか! そんなにびしょ濡れになってしまわれて。今朝、折りたたみ傘をお渡ししたはずですよね!?」


(聞き手が事情を話す)

「同僚が傘を忘れていたから、渡してしまった? それでご自分が濡れてしまわれては……。今、タオルをお持ちします」


//SE(駆け足で洗面所へ向かい、すぐに戻って来る)

(聞き手の顔や体を拭きながら)

「さあ、お顔をこちらに。服もすぐに着替えた方が宜しいですね。このまま、お風呂場までご案内いたします。お荷物もそちらの方に……。後で、私が乾かしておきますから」


//SE(二人で洗面所に移動する)

「お風呂は既に沸かしてあります。洗濯物は適当に置いておいていただければ。ともかく、湯船に浸かって体をじっくりと温めてください。よろしいですね?」


(聞き手が分かったと答える)

「では、私は一度失礼いたします。また、後ほど」


//SE(洗面所の扉を閉める音)


//SE(湯船の水面が揺れる音)

//SE(聞き手がお湯を肩にかける)


(扉越しのくぐもった声で)

「ご主人様、失礼いたします」


//SE(風呂場の扉の開閉音)

//SE(濡れた足場を伝う音)


「ご主人様、お背中をお流しするべく参上いたしました」


(慌てて目を背ける聞き手を見て)

「そんなに慌てふためずとも大丈夫ですよ。私はこの通り、水着を着用しておりますから。ですから、目を逸らさないでください」


「……そんな風に素っ気なくされてしまうと、寂しくなってしまいます」


(仄かに笑みを浮かべて)

「紳士的ですね、ご主人様は。とても可愛らしいですが、それ以上に素敵だと思います」


//SE(聞き手がばちゃんと水音を立てる)

「顔を真っ赤にされて、のぼせてしまいましたか? 私の言った通り、ちゃんと温まっていただけたようですね。さあ、こちらへいらしてください。まずは髪を洗って差し上げます」


//SE(湯船から出る音)

//SE(椅子に腰かける音)

//SE(シャワーを出す音)


「では、目をつむってください。軽く髪を濡らしますから」


//SE(シャワーを止めてシャンプーを出す)

//SE(適度にシャンプーを泡立てる)

「ゴシゴシ、ゴシゴシ……。いかがでしょうか。なるべく頭皮を傷つけないようにはしておりますが、逆に痒いところなどがあれば少し強めに洗いますので仰ってくださいね」


(聞き手が気持ち良いと伝える)

「それは何よりです。私には妹がおりまして、よく髪を洗ってあげておりましたのでこういうのは得意なのですよ」


//SE(シャワーを出す音)


「さあ、目をつむってください。シャンプーを落としていきますからね」


(十数秒ほどじっくりとシャンプーを洗い流してから)

「はい、流し終わりました。今、タオルで顔を拭きますからそのままでお待ちくださいね。……これで大丈夫そうですね。目を開けてくださって結構です」


//SE(ボディーソープを出す音)

//SE(ボディソープを泡立てる音)


「では、今度は体の方を洗っていきますね。手始めに、首元から失礼いたします」


(首の周りを入念に洗いながら)

「首回りや関節部分、見えない背中辺りは特に垢や汚れが溜まりやすいですからね。しっかりと洗っていきます。……お次はお背中を洗っていきますね」


「男性のお背中というのは、とても逞しいものですね。少し、触れてみてもよろしいでしょうか?」


(許可を貰い、背中に触れる)

//SE(泡のついた手で背中に触れる音)

「硬くて、大きく、ですが優しく温かなものが手のひらを通して伝わってくる気がします。不思議ですね。その背中を見せていただいているだけで、安心感を覚えます」


(再び背中を洗い始め)

「ありがとうございます。こうして、男性のお背中に触れるのは初めての体験でしたから少しだけドキドキいたしました」


(聞き手が僕なんか、と謙遜する)

「大した事ない、などと仰らないでください。その背中に期待や責任、他者への思いやりといった様々なものを背負ってくださっているからこそ、お仕事を頑張ったり、誰かに優しさを分け与えたりできるのです。もっと誇ってもよろしいのですよ」


//SE(少し自分の位置を前にずらす音)

「っしょっと。では、お次は前の方を失礼いたします……ご主人様? どうかされましたか?」


(いや、その……と聞き手が恥ずかしがる)

「何故、そのように体をびくつかせていらっしゃるのですか? 若干、耳の先端も赤いような気がいたしますが……」


「……胸が当たっている、ですか? ご不快なら、少し離れますが?」


(聞き手が慌てて否定する)

「え、そうじゃない? では、もっと当ててほしいのでしょうか? ご主人様は、意外と大胆な方でいらっしゃったのですね」


(そうでもなくて……と聞き手がしどろもどろになる)

「……ふふ、冗談でございます。そんなに口をもごもごなされて、可愛らしいお方ですね。もちろん、冗談でございます」


「失礼かとは思いましたが、少々からかいたくなってしまいました。……ですが、あまり距離を取っても洗いにくいですし、他の方に親切にされたご主人様も良いことがあっても罰は当たらないと思います」


//SE(体を一気に密着させる)

「少々、我慢してくださいませ。すぐに洗い終わりますよ。次は胸の方、失礼いたします。……こちらも、中々硬くていらっしゃいますね。ご主人様の頼もしさが詰まっているような……そんな気がいたします。その気高さが仕事にも現れるよう、汚れは綺麗に洗い落として参りましょう」


「……はい、これで大丈夫ですね。このまま、片腕ずつ洗って参ります。まずは、左側から……。腕の付け根を始めとして、二の腕から手首にかけて往復しながら全体を満遍なく綺麗にして……っと」


「そうしましたら、今度は手のひらと指の方を。特に、汚れの溜まりやすい指の間は念入りに洗って……。はい、これで左腕は終わりになります。これと同じことを右腕でも繰り返します」


「……ご主人様の腕は、とても細くていらっしゃいますね。ですが、不思議と折れてしまいそうという風には感じません」


(アリサの腕も細いねと聞き手が言う)

「私の腕も細い、ですか? はい、私もそう思います。ただ、ご主人様のような頼もしさや逞しさは微塵も感じられません。できることも、あまり多くはないかもしれませんが……それでも、この腕でご主人様の生活だけはお支えして見せます」


「ですから、ご主人様はご自身にしかできないことに専念していただきたいのです。お仕事をしたり、時に体を休めたり……。お休みのときには、ご主人様が最も快適に過ごせる環境を整えさせていただきますので、何なりとお申し付けくださいませ」


「……はい、これで腕の方も……」



(聞き手が待ってと止める)

「どうかされましたか、私の手を止めて……。ここからは自分で? ……そうですね、これ以上は戯れが過ぎてしまいます。では、先にシャワーを出して温めておきますね」


//SE(シャワーを出す音)

「……お水から温度が戻りましたね。ご主人様の方は……ちょうど洗い終わったようですね。それでは、流させていただきます」


//SE(首から順番にシャワーで泡を流す音)

「泡がどこかに残らないように、隅々まで流していきますからね。首の根元から、指の先から、足の先まで全て丁寧に……はい、これで完了ですね。お疲れさまでした。この後は如何いたしますか? もう一度湯船に入られますか? もしくは、ご一緒にはいるということも可能ですよ?」


(聞き手の耳元に口を寄せて)

「ご主人様が、お望みとあらば」


(じゃあ、もうあがるから! と聞き手が言う)

「あの、もう上がられるのですか? 今のはほんの冗談……」


//SE(立ち上がる音)

//SE(慌てて風呂場から出ていく音)

//SE(扉の開閉音)


(聞き手が去ったのを見送って、少し間を置いて)

「ほんの少し、からかっただけなのですが……。少々、お戯れが過ぎましたね。ですが、ほんの少しだけ……残念です」


//SE(シャワーを浴びる音で徐々にフェードアウトする)

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