第29話 悪役令嬢は恐怖を覚える(前編)
私の一言で私たち……正確には、勇者一行と皇族の皆様とメイドの私が大広間に通され、そのまま綺麗に整えられた円卓テーブルの席に座った。
「あの、アルベルト様?」
「なんだい、ティナ?」
「陛下の前ですし、せっかく私の席があるのですから、わざわざアルベルト様の膝に乗せなくても……」
「嫌だ、今の僕はティナと離れるなんてしたくない」
「ううっ……」
アルベルト様、悪役令嬢に対してこんなキャラだったかしら?
だって、アリアに出会ってからスキンシップはおろか、会話なんて……
「ティナ、今の僕を信じられないよね?」
「え、えぇっ……」
「ハハッ、そうだよね。何も知らないティナの目には、今の僕はさぞかし酷い男に見えるんだろうね」
「アルベルト様……」
こんな悲しい顔をするアルベルト様、初めて見たわ。
だからと言って、彼を信じることなんて出来ない。
今の私の中の彼は、『婚約者を放り出して聖女とうつつを抜かす男』だから。
とは言え、彼の逞しい膝の上で座ったまま話が聞ける自信が無いわ。
悲しそうな顔で膝に乗せている私をアルベルト様がそっと抱き寄せると、上座にいらっしゃる陛下が深いため息をついた。
「ティナ嬢、悪いがアルベルト殿の言う通りにしてくれないか……いや、むしろ言う通りにして欲しい。我々のためにも」
「は、はぁ……」
本当に、何があったのかしら?……あっ。
私達を見て顔を青ざめている皇族の皆様に思わず首を傾げた私は、ある大事なことを思い出す。
「陛下」
「なんだ?」
「祝勝パーティーの方は、大丈夫なのでしょう?」
確か今、祝勝パーティーの最中のはず。
主賓がいない状況で、パーティーを続けるなんて出来ないと思うけど。
「あぁ、それなら案ずるな。アルベルト殿達が我が国に転移した直後、バドニールの王がその場で『今日の祝勝パーティーは明日に延期する』と宣言していたからな」
「そ、そうですか」
『明日に延期』ね……いっそ、中止にした方が良い気がするけど。
まぁ、要人達を招いているから、そのまま帰すわけにはいかないわよね。
「さて、まずは何から話したら良いか……」
すると、私の肩に顔を埋めていたアルベルト様が顔をあげる。
「そんなの、僕が祖国に帰ってきたら、愛するティナと婚約破棄していて、そこで無様に寝転んでいる聖女と結婚することになっていた。だから、僕はティナとの婚約破棄を撤回させた上で、僕自らがティナを迎えに来た。これで良いんじゃないかな?」
「待て待て、それだけでティナ嬢が納得すると思うか?」
「え? ティナ、さっきの僕の説明で分からなかった?」
酷く慌てた様子の陛下の言葉を聞いて、アルベルト様が不思議そうに私を見つめる。
うっ、至近距離でのイケメンの困り顔、破壊力が凄まじすぎて意識飛びそう。
「え、ええっと……そうですね。一体、どうしてそうなったのか全く」
「そうか……」
正直、ツッコミどころ満載で本当になぜこうなっているのか、今の説明だけでは全く分からない。
困ったように笑っている私を見て、アルベルト様が酷く落ち込まれていると、『コホン』と再び咳払いをした陛下が話を戻す。
「ティナ嬢もさっき口にしていたが、バドニール王国で今日、魔王討伐を無事成し遂げた勇者一行を祝したパーティーが開かれていた」
「そうですね」
ここまでは、小説で読んでいたし、シャノン様から事前に聞かされていたから知っていた。
「それで我々皇族はそのパーティーに行ったのだが……」
何かを思い出した陛下は、深いため気をつくと頭を抱える。
「魔王討伐と勇者帰還ということで、パーティーが始まる前からとても良い雰囲気だった。そしてパーティーが始まり、勇者一行が謁見の間に現れると、割れんばかりの拍手が会場中に響き渡った」
ここも、小説通りね。
いかに皆が勇者パーティーの帰還を待ち望んでいたのか、物凄く分かりやすく描かれていたのよね。
「その直後、バドニールの国王夫妻が現れ、国王がパーティーの開始を宣言したのだが……」
そこから先の話は、小説を知っている私にとっては『どうしてそうなった!?』とツッコみたくなる話だった。
パーティー開始直後、気を良くしたバドニール国王が、高らかにアルベルト様の婚約者を私からアリアに変えたことを宣言した。
その瞬間、勇者にしか扱えない大剣を引き抜いたアルベルト様は、玉座にいる国王の喉元に刃を突き立てたそうだ。
国に対する反逆行為とも取れる行動に、陛下を含めたその場にいた全員が唖然とする中、無表情のアルベルトがたった一言、実の父にこうおっしゃったそうだ。
「『婚約者をティナに戻せ。さもなくば、この国を滅ぼす』ってね♪」
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