第18話 嗤いが止まらないヒロイン(後編)
小説通り、教会に行った私は聖女として認められ、お父さん……いや、お父様のいるエーデルワイス公爵家に養子として迎え入れられた。
そして、私は悪役令嬢から虐められ……ってそんなことは無かった。
なにせ、お父様にお願いして悪役令嬢を別邸に住まわせ、意図的に悪役令嬢との接触を避けたから。
外部に漏れないように口止めをして。
でも、ヒロインが物語通りのハッピーエンドを迎えたいがために、前世の記憶を駆使して悪役令嬢を一気に追い詰めるのは良くない。
万が一、前世で読んでいたラノベみたいに、悪役令嬢に前世の記憶が戻ったらざまぁをされる可能性があるから。
だから、魅了して手駒にした使用人達や学園の生徒達を利用して悪役令嬢の様子を伺いつつ、娼館の太客達を使って悪役令嬢に悪い噂を広め、徐々に悪役令嬢を追い詰めていく。
もちろん、私がやったという証拠が残らないように。
そうしてじわじわと悪役令嬢を孤立させている間に、ヒロインの私は推しとの仲を深めていき、物語通りに推しや仲間達と共に魔王討伐を果たした。
「でもまさか、こんなに上手くとは思わなかったわ。ヌルゲーすぎて笑っちゃった」
普通に考えて、何かと忙しい悪役令嬢が何かと忙しい聖女に危害を加えるなんて出来ないから、噂がガセだって分かっちゃうのに。
やっぱり、聖女だからみんなチョロいくらいに信じちゃったのかな。
そう考えると……アハッ、やっぱりこの世界で、ヒロインである私のためにあるのね!
「それにしても、聖女の力に『変身』の能力があって良かったわ」
そう言って、鏡の前に立った私は、自分自身に魔法をかける。
すると、聖女らしい清楚さと儚げさを併せ持つ愛されヒロインが、誰もが目を惹く金髪碧眼の絶世の美女に変身した。
この能力が無かったら、思う存分、他の男達と遊ぶことも、悪役令嬢の噂を意図的に流すことが出来なかったから。
まぁ、聖女が娼館に通っていたり、積極的に公爵令嬢を貶めたりしているなんて世間に……特に、推しに知られたら、物語が破綻しちゃってハッピーエンドが迎えられない。
それだけは、どうしても避けたかった。
「でも今日まで、推しと深い仲になることは出来なかったわね」
ヒロインとして、物語から逸脱した行動をしてはいけないのは分かっている。
でも、推しと濃密な時間を過ごしてみたい!
だから、聖女としての清楚さとヒロインとしての可愛いイメージを保ったまま、推しとの距離を徐々に詰めていったんだけど……なぜか今のところ上手くいっていない。
おかしいわね、他の2人だとあっさり上手くいったのに。
「やっぱり魅了を使って……って、そんなことをしたら物語が破綻するからダメよ!」
物語ではヒロインの健気さに推しは陥落したんだから、現実でもそれはちゃんと通さないと。
すると、ドアをノックする音が聞こえた。
コンコンコン
「アリア、いるか?」
あぁ、むさ苦しい騎士ね。
ここに来たってことは、私と一緒に朝まで楽しみたいってことよね。
正直、全然乗り気じゃないけど……まぁ、いいわ。
もう少しすれば推しと結ばれる。
だったら、残りあと少しの独身生活の思い出として楽しもうっと♪
あっ、でも推しと結ばれたとしても、今まで通り他の男の人と遊ぶわよ。
前世みたいな娯楽があまり無いこの世界で、『ワンナイト』は最高の娯楽だから手放すことなんて出来ない!
推しは好きだし、結婚もしたい。
でも、それとこれとは違うから。
「アリア?」
「あっ、ちょっと待ってて!」
そう言って、小さく溜息をついた私は、絶世の美女から愛されヒロインの姿に戻すと扉を開ける。
「ディルク」
「お疲れ、アリア。入っていいか?」
「良いよ、入って」
ディルクを部屋に招き入れた私は、そのままベッドにディルクと並んで座った。
「アリア。改めてだが、今までお疲れ様」
「ディルクこそ、お疲れ様。あなたがタンクとして活躍してくれたお陰で誰一人欠けることなく、みんなで魔王を討伐することが出来たわ」
「アリア……」
頬を染めるディルクの鍛えられた体に豊満な胸と押し付ける。
すると、一瞬息を呑んだディルクが、私の華奢な体を抱き寄せる。
「いや、聖女の君がいたから俺たちは魔王を討伐することが出来たんだ」
「嬉しい、ありがとう」
窓から差し込む月明かりを加味した儚げな微笑みを浮かべると、大きく目を見開いたディルクが、獲物を見つけたような獰猛な目をすると、無骨な大きな手でそっと私の頬に包む。
「良いか?」
「もちろん」
小さく頷いた瞬間、ディルクは待ちきれないとばかりに私に舌を絡めた熱いキスをする。
この男はしつこくて嫌なんだけど、今の私はとても機嫌が良いから最後まで付き合ってあげようっと。
なにせ、バドニールに戻れば、私はめでたくアルベルト様とハッピーエンドが待っているから!
世間は今や『『毒婦』と呼ばれている悪役令嬢よりも、『聖女』である私の方を勇者の妻に!』って声が広がっているから!
正確には、言わせたんだけど。
そうして、私は推しとのハッピーエンドに妄想を膨らませながら、ディルクと熱くて濃厚な一夜を過ごした。
けど、この時の私は気づきなかった。
まさか今までの行いが全て、推しの地雷を踏んでいたなんて。
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