第9話 国王と対峙する悪役令嬢(前編)

 破滅回避のために、お父様にアルベルト様との婚約破棄を申し出て数時間後。


 私との話し合いが終わってすぐ、お父様は王城に早馬を出した。


 そのお陰で、お父様に婚約破棄を申し出たその日のうちに陛下へ謁見が叶った。


 『どれだけアリアとアルベルト様を婚約させたいのよ』と心底呆れたのは言わずもがな。


 それにしても、陛下の対応が思った以上に早かったのは驚いたわ。


 なにせ、国のトップ。毎日、国のために膨大な公務をこなされているのは想像にかたくない。


 そんな中で、由緒ある公爵家からの突然『王命で交わされた婚約の破棄したいから謁見を申し出る』なんて言われたら……まぁ、『何事か!?』ってなって急ぐわね。


 私としては、一刻も早くアルベルト様やアリア……いや、アリアに支配された屋敷を出たいから、勇者一行が帰ってくる前に陛下との謁見が叶ったのは嬉しい誤算なんだけど。


 早馬で陛下との謁見が許された知らせが届いた瞬間、お父様はメイド達に私の支度を命じる。


 陛下との謁見で、下手な恰好は出来ないから。


 と言っても、用意されたドレスは、数日前に開かれたお茶会でアリアが来ていたもの。


 他の貴族が見たら間違いなく『貴族としての常識があるのか?』と嘲笑を浴びるわね。


 由緒ある公爵家なら尚更。


 久しぶりにメイド達に世話をされて、『私、公爵令嬢だったわね』と実感する間もなく、支度が済むとお父様から強引に馬車に乗らされる。


 それから、馬車に揺られて約10分後。

 王城に着いた私とお父様は、入口で待ち構えていた宰相の案内で王城の奥にある謁見の間に通された。



「……というわけでして、畏れ多くもティナとアルベルト殿下の婚約を破棄し、我が愛しいアリアと殿下の婚約を認めていただきたいのです」



 深々と頭を下げるお父様の口から私とアルベルト様の婚約を破棄し、アリアをアルベルト様の婚約者にしたいという旨を聞いた国王陛下は、眉を顰めながら考えを巡らせる。



「ふむ、確かにそなたのいうことには一理ある」

「でしたら……!!」

「だが」



 嬉しさのあまり笑みを零すお父様に、隣にいた私は再び心底呆れる。


 本当、どれだけアリアをアルベルト様の婚約者にしたかったのよ。


 すると、なぜか渋い顔をした陛下が気遣うような目で私を見る。



「ティナ嬢はそれでいいのか? 王命で決められた婚約者とはいえ、アルベルトとはそれなりに仲が良かっただろ?」



 今までの話を聞いて、私にそれを聞くということは……あぁ、やはりこの方も、噂に踊らされた1人だったのね。


 この国の主なのに、根も葉もない噂に踊らされるなんて。


 まぁ、『毒婦』と呼ばれている女より、聖女である義妹を王族の婚約者に相応しいわよね。


 ニヤニヤした顔でこちらを見ているお父様を他所に、王族の体裁を重んじた陛下の見え透いた本心に、思わずため息をつきそうになった私は、グッと飲み込むと小さく首を縦に振る。



「はい。それが、国民が望んでいることでしたら」



 公爵家の名に恥じないお淑やか態度で返事をする私を見て、陛下は驚いたように目を見開く。


 どうやら、この方の耳に届いている私に関する噂はよほど酷いものなのだろう。


 そう言えば、小説での断罪シーンで、陛下は私の悪行をアリア本人だけでなく、アルベルト様や王妃様、そして王城で働いている使用人達や多くの貴族達から聞いたと描かれていたわね。


 小説を読んでいた時は『国王様、とても賢明な方だな』と思ったけど……実際は、視野が狭い方だったのね。

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