第3話 実は不遇な悪役令嬢(前編)

 王命により聖女の力に目覚めた当時15歳のアリアを母と共にエーデルワイス家に迎えたことで、公爵令嬢としての私の生活が瞬く間に変化していった。


 銀髪に赤い瞳、そして、お母様譲りのキツイ顔立ちの私は、幼い頃から公爵令嬢としての立ち振る舞いを叩き込まれていたため、容姿と相まって周りの貴族から『冷徹』『鉄で出来た女』と揶揄されて敬遠されることが多かった。


 とはいえ、私の性格を見抜いて『友人』としての仲良くしてくださる方はそれなりにいた。


 対して、我が家の養子としてむかえいれられたアリアは、ピンク髪に蜂蜜色の瞳の可愛らしい顔立ちで、性格は天真爛漫ながらも心優しく素直な、正しく愛されヒロインと言った女の子だった。


 そんな彼女を初めて会った時、『危なっかしい子ね』と思ったわ。


 聖女とは言え、これから歴史あるエーデルワイス公爵家の娘として生きていくのならば、彼女の天真爛漫と素直さは、社交界では仇となってしまうから。


 でも、それは淑女教育で直していけばいいと思っていたし、そのつもりで彼女と関わることも決めていた。


 けれど、彼女がエーデルワイス家に来てから、彼女に素直さや可愛さにお父様や使用人達が次々と絆されていった。


 本能的に『危険だ』と思った私は、お父様に何度も進言をしたし、アリア本人にも都度都度教えていたわ。


『このままでは、エーデルワイス家が没落してしまう』と。


 しかし、アリアの可愛さや継母の美しさに絆されていたお父様は全く聞く耳を持たなかったわ。


 アリアに至っては、教える度に『酷い!』と言ってお父様やお継母様に泣きついて、その度にお父様からキツく叱られた。


 私はただ、エーデルワイス家を守るために言っているだけなのに。


 そうこうしているうちに、屋敷の中の中心が私ではなくアリアに変わり、私は『アリアの可愛さに嫉妬する嫌な女』として家族や使用人達から敬遠されるようになった。


 お父様から別邸に住むように言われていたのもこの頃だったわね。


 屋敷に居場所が無くなった私だったけど、学園には親しい友人がいたから、居場所が無くなったわけではない。


 でも翌年、お父様にワガママを言って、学園にアリアが通い始めた途端、聖女アリアは瞬く間に学園の中心になり、この頃になぜか流れた私に関するも相まって、親していた友人やクラスメイトはみんな私を避け、アリアと仲良くしていた。


 ついには、学園に通っていた婚約者めアリアと仲良くなってしまい、私の周りにいた人達は全員、アリアのところに行ってしまった。




「小説では、アリアに味方している人達を物凄く腹立たしく思っていた私は、アリアに対して事あるごとに過度な嫌がらせをして、その度に周囲から冷たい目を向けられていたのよね」



 小さく溜息をついた私は、窓越しに本邸を見つめる。



「小説を読んでいた時は、聖女として健気に頑張るヒロインのアリアに、意地汚い嫌がらせをする悪役令嬢を心底嫌っていたけど……こうして本人になってみると、義妹に嫌がらせをしたい気持ちは分からなくもないわね」



 今まで親しくしていた人達が全員、たった1人の……それもある日突然現れた元平民と仲良くして、自分と距離を置くようになったんだもの。


 そりゃあ、八つ当たりもしたくなる。


 それが、大切な人が亡くなってから日も浅いうちに家族として迎え入れられた人間なら尚のこと。



「小説の中の私は……いや、前世の記憶を思い出す前は私は寂しかったのよ」



 仲良くしていた人達がアリアと仲良くなって、自分のもとから離れていったから、自分だけ置き去りにされたように思えて堪らなく寂しかったのよ。


 だから、アリアを目の敵にして虐めたくなる。


 彼女から今まで向けられていた愛情を自分の手で取り戻したくて。


 小説の中の私も、きっと同じ想いを抱いていたに違いない。



「とはいえ、実際はアリアを虐めてなんていないんだけど!」

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