第18話 「脩だと思って毎晩抱きしめて寝るね」って可愛すぎだろ!
結局、なんとかハンドクリームを選び終えた俺たちは、1人ひとつずつお揃いのハンドクリームを買って店を出た。
「……これ、やっぱりいい匂いだね」
何種類も匂いを嗅がされて、その中で俺が「おっ」と思った匂いは、どうやら瑠偉も気に入ってくれたみたいだった。
帰り道、何度も何度も自分の手の匂いを嗅いでは、幸せそうにニコニコとしている瑠偉は、見ているこっちが幸せになるくらい可愛かった。
「脩もちゃんと使ってね。じゃなきゃ意味ないんだから」
「意味ってなんだよ」
「お揃いの意味だよ」
……いやだから、お揃いの意味ってなんだよ。
てか、そもそもお揃いのハンドクリームってなんだ?
そんなのもうほとんどカップルじゃないか。
そうは思っても口には出さないけど。
なんか俺だけ妙に意識してるみたいで恥ずかしいし……。
(……つか。なんか、マーキングしてるみたいだよな。匂いって)
だってさ? 俺の好きな匂いを瑠偉がさせてるとかさ。
――こいつは俺のだ――って主張してるみたいじゃないか?
今回の場合は瑠偉から『脩の好きな匂いのハンドクリームがいい』と言ってきたので、不可抗力ではあるが。
不可抗力ではあるが――、隣にいる瑠偉から時おり、俺が『いいな』と思った匂いが漂ってくると、なんともくすぐったい気持ちになる。
(こういうの、分かっててやってんのかなあ?)
わかっていてやっているのだとしたら、俺の手には負えないくらいの魔性だ。
(でもまあ多分、違うんだろうなあ……)
目の前の瑠偉が単純に嬉しそうなのを見ると、多分そうじゃないんだろうなと思う。
だからこそこっちも、可愛いやつだな、って思っちゃうんだけど。
「あ、ねえ脩、あれ見て」
「ん?」
「あれ! ちいくま!」
ちいくま?
そう言って瑠偉が指差したのは、ゲームコーナーにあるUFOキャッチャーだ。
「あー、これかあ……。これ、みんな好きだよな」
「だって可愛くない? それに、ちょっと脩に似てる気がするし」
「俺にい?」
……どこがだ?
俺からすればただの二頭身のくまのぬいぐるみでしかないんですけど。
「う〜、取れるかなあ……」
「え、お前やるの?」
「うん。だってこういうのやったことないし」
そう言いながら瑠偉が財布を取り出し、ちゃりんちゃりんと百円玉を投入する。
うい〜〜〜〜〜ん。
すかっ。
「えっ、全然難しいんだけど」
「……こういうのはコツがあるからな」
でもって、ぱっと見、取れそうな配置にしてあったりするんだよな。
そう思いながら瑠偉が「もう一回」と言って諦めずにチャレンジするのを黙って見つめた。
「うええ……。全然取れないよお……」
何回かチャレンジして、それでも上手くいかない瑠偉が弱音を吐く。
……こいつ、そんなにこれ欲しかったのか。
てっきり、UFOキャッチャーやったことないからちょっとやるだけ、くらいの軽い気持ちでやるんだと思ってたけど。
うーん。じゃあなあ……。
初挑戦で、何にもなしで帰るのも寂しいしな。
「瑠偉、ちょっとどけ。俺が取るから」
「え」
そう言って、瑠偉の肩をそっと押して台の前からどかすと、じっと台の中の位置関係を計算する。
ええっと……。
一旦ああして、こうして……。
そうやって俺が脳内で試行錯誤している間、瑠偉がさりげなくぴとっとくっついてくるが、とりあえず一旦気にしないことにする。
「ん。いける」
「……ほんと?」
そう宣言すると俺は、自らの財布から百円玉を取り出し投入する。
うい〜〜〜ん。ういん、ういん。
俺が何回か操作していると、いつの間にか緊迫した空気を放つ瑠偉が、「ほわぁ……」とか「うっ」とか謎の声を上げている。
…………お。
「……取れた」
ごとん、と音を立てて取り出し口に落ちていったぬいぐるみを見た瑠偉が、俺の代わりにそう言った。
「え、凄い。凄いね、脩! 取れたよ」
「おー」
そう言いながら取り出し口からちいくまのぬいぐるみを取り出すと、俺は瑠偉にの胸元にぽすっと押し付けてやった。
「ん。やる」
「え」
俺がそう言うと、瑠偉が意外そうに声を漏らす。
「……え? もらっていいの?」
「いや、だってそのために取ったんだし……」
そりゃそうだろ。
あんなに頑張ってる子の横で取って、『じゃ、これは俺のだから』とか言うやついるか?
いたら性格悪すぎるだろ……。
「ふぇ……、え、めっちゃ嬉しい……!」
そう言って、俺が胸元に押し付けたちいくまのぬいぐるみをきらきらと見つめる瑠偉。
うんうん。よかったな。
「ありがと、脩! この子、脩だと思って毎晩抱きしめて寝るね!」
そう言って、俺に向けてぬいぐるみを抱きしめて見せる瑠偉だったが。
俺には、ちいくまよりお前の方が全然可愛く見えるよ……!
取る前からけっこう大きめだなと思っていたけど、瑠偉が抱えると一抱えくらいある。
そんなくまのぬいぐるみを抱えて嬉しそうににっこにこに笑う瑠偉は、もはや他に変えがたいくらい可愛かった。
「うう〜〜〜〜、どうしよう。脩が大好きすぎて死んじゃう」
「んな、大袈裟な……」
そう言って瑠偉がちいくまを抱き抱えたまま俺の腕をさりげなく組んでくるが、そう言われて嬉しくない男がいるだろうか?
いや、いない。
結局その後、ご機嫌になった瑠偉が、ちいくまを抱きしめたままずっと俺の腕を組んで離さないで歩くのを『これもう、カップルにしか見えないだろ』と思ったが、『……まあ本人も喜んでるしいいか』と黙って享受した。
今日の買い物は日ごろの瑠偉へのお礼の会だしな、うん。
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